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PTL とは [Phase Tracking Loop] の略で、
Victor T-X5
に初搭載されました。
Victor のオリジナル技術です。
アメリカの IEEE (電子技術者協会) の1978年度の最優秀賞を受けています。
T-X5 を材料に PTL 検波とは何か?を考察します。
参考文献は
こちら
です。
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T-X5 の PTL 検波部は [
HA11211
]+[ディスクリート回路] で構成します。
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[HA11211] ですから、基本はクォードラチュア検波です。
通常のクォードラチュア検波では広帯域位相シフタを使うフォワードオンリー制御です。
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PTL 検波では、狭帯域位相シフタを使い、この位相角をフィードバック制御します。
フィードバック制御によって全体では広帯域検波となります。
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クォードラチュア検波もキチンと90度位相シフトされることが保証されるのであれば優れた検波方式と思います。
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一般のクォードラチュア検波では90度位相シフトが検波全帯域で保証されていないのです。
だから音質や S/N で不満が出ます。
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PTL 検波は検波全帯域での90度位相シフトをフィードバック制御を使って補償します。
だから良い特性が出るのです。
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PTL 検波を T-X5 の回路図で考察してみます。
右の回路図をクリックすると原寸の pdf ファイルで見れます。
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PTL 検波の基本は [HA11211] を用いたクォードラチュア検波です。
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通常のクォードラチュア検波では [HA11211] 12〜13pin に90度位相シフトの目的で、広帯域同調コイル(Q が低い)を接続します。
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PTL 検波では [HA11211] 12〜13pin に狭帯域同調コイル(Q が高い)を接続し、このコイルはバリキャップ同調とします。
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バリキャップを制御するのは [HA11211] 15pin の AFC 出力です。
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AFC 出力とは [リファレンス IF] と [IF を90度位相シフトした周波数] を位相比較した結果を電圧値で示す出力です。
TP5 のラインがクォードラチュア検波のイマジナルグランドです。
このイマジナルグランドを基点として+−に振れます。
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[HA11211] 14pin の FM IF OUT 出力からは [リファレンス IF] と同位相の IF 周波数が出ています。
これを C443, R406, C441 を介して L106 に導き、ここで [IF を90度位相シフトした周波数] を生成します。
[IF を90度位相シフトした周波数] は [HA11211] 13pin の QR IN に入り、上記の位相比較をします。
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バリキャップを制御するのがこの AFC 出力ということは、IF 周波数の変化に狭帯域同調コイルの同調周波数が追随し、広い範囲で90度位相シフトを正確に行えることを意味します。
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通常のクォードラチュア検波では同調コイルの経年変化や温度変化で位相がズレやすいですが、PTL 検波では AFC を使ったフィードバック系でこのズレを吸収できるメリットがあります。
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通常のクォードラチュア検波では正しく90度位相シフトされているのは中心周波数 10.7MHz だけで、この中心周波数から離れるごとに少しずつ位相がズレます。
これがクォードラチュア検波の歪率悪化と S/N 悪化につながります。
PTL 検波では広帯域で正しく90度位相シフトされるようフィードバック制御され、歪率と S/N の優位性があります。
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結論として、
PTL 検波は改良型クォードラチュア検波
と言えます。