KENWOOD KT-3030 (2号機) が到着
2022年12月11日、埼玉県草加市の Y さんより
KENWOOD KT-3030
の修理依頼品が到着しました。
定価12万円の高級 FM 専用チューナ
です。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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5年くらい前までは受信状態がすこぶる良好だったのですが ・・・
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最近ではだいぶ感度が下がり、パチパチノイズが非常に増えて聞き苦しい状況です。
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チューナにはケーブルテレビのケーブルを接続しています。
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受信状態の悪化が、ケーブルテレビ側に起因するのか、チューナの性能低下なのかがわかりません。
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新しい(といっても中古の)チューナを入手しようとも考えていました。
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その前に KT-3030 をオーバーホールして、原因を知りたいです。
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radiko を PC オーディオを用いて再生した音質と KT-3030 の音質に、CD と SP レコードくらいの差を感じております。
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それくらい S/N が悪くノイズが多いのです。
とても聴けたものではありません。
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外観
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製造シリアル番号は [57K10606] で、電源コードからは製造年がわかりませんでした。
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フロントパネルの上側で左から1/3くらいのところに1つ僅かなキズがあります。
これ以外は綺麗です。
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リアパネルは綺麗で端子類にも輝きがあります。
全体としては綺麗な逸品です。
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天板は綺麗です。
底板には特に問題がない薄いサビが出ています。
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底板に KENWOOD サービスの [2011-4/11] [2011-12/26] のメンテナンスシールが貼ってあって、2回修理をしているようです。
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電源 ON して動作チェック
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電源は問題なく入りましたが、やはり、いろいろ問題ありそうです。
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FL 表示は少し痩せた部分はありますが、まだまだ使えそうです。
表示は正常です。
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ボタンを押すと入りにくいことがあり、少し強めに押すと動作します。
タクトスイッチが劣化していると思います。
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オートチューングで正しい周波数で止まります。
周波数ズレはあまりないと思います。
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RF MODE が [DISTANCE] では受信できますが、音の強弱に合わせてパチパチという雑音が乗ります。
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なかなか表現が難しいのですが、音が割れてパチパチ風に聴こえる、さざ波のような雑音です。
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修理依頼者の疑問である [電波の問題か?] [KT-3030 の問題か?] は、後者でしょう。
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パチパチ雑音を差し引いて考えると、音自体は KENWOOD らしい良い音です。
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RF MODE が [DIRECT] では歪だらけの音になります。
感度が低下しているようです。
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リアパネルのオーディオ出力用 [LEVEL ボリューム] が変です。
レベル最大位置で音が途切れることがあります。
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カバーを開けてチェック
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使用 IC のロット番号より、本機は [1985年製造品] とわかりました。
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内部基板は綺麗で、目視では特に不具合部品はないように見えます。
リペア
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音の強弱に合わせてパチパチという雑音が乗る
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現象確認と切り分け
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[MULTIPATH] の [H] 端子には検波出力がそのまま出ています。
ここで音を聴くと雑音があることを確認しました。
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そうすると、原因は [フロントエンド] [IF 部] [PLL 検波部] のどこかにあることになります。
[MPX] 以降は問題なさそうです。
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ほとんど正常で雑音だけが時々出るという現象の対策は時間と手間がかかるのです。
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ブロックごとにバッサバッサと部品を交換してみるのが一番早いです。
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FM フロントエンドの [トリマコンデンサ] を全数交換してみました。
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通常、ガサゴソという雑音は OSC のトリマコンデンサ故障のことがほとんどです。
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本機は製造から40年近く経っているので、いずれにしても交換するほうがよいです。
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トリマコンデンサ×6個を右の写真の 10pF に交換しました。
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同時にバリキャップ [KV1320] も取り外して確認しましたが、異常はなかったので元に戻しました。
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同時に FM フロントエンド全体の半田付けを補修しました。
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ハンダが劣化して泡状になっているのとダンゴハンダが多数見られたからです。
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右の写真はその例ですが、ハンダが盛り上がってダンゴになっています。
明らかにハンダクラック気味です。
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こうなっているのは FM フロントエンドの部分だけで、その他の部分は大丈夫でした。
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推定ですが、FM フロントエンドは基板の右端にあり、製造時に基板をハンダ層に流す時にフラックスが左右で均一ではなかったのが原因のような気がします。
製造時の問題でしょう。
右側のフラックスが多過ぎたか。
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ハンダ付け部分の古いハンダを吸い取り、新しいハンダを流し込むという作業を何百点も実施したので、膨大な時間がかかりました。
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結果、少しマシにはなった感じがするが現象は変わりませんでした。
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IF 部の FET とトランジスタを全数交換してみました。
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本機の IF 部は完全ディスクリート構成となっており、[FET]×2本、[トランジスタ]×20本 使われています。
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全て同型の右の写真の [2SK125] [2SC1923] を使って一斉交換しました。
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結果、少しマシにはなった感じがするが現象は変わりませんでした。
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PLL 検波部の FET とバリキャップを全数交換してみました。
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本機の PLL 検波部は完全ディスクリート構成となっており、[FET]×2本、[バリキャップ]×1本 使われています。
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FET は [2SK161]→[2SK192A] に交換しました。
バリキャップには同型の [KV226] を使って交換しました。
右の写真です。
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結果、パチパチという雑音が消えました。
原因は PLL 検波部にあったようです。
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ところが、40dBf 以下の若干弱い電波レベルでザッザー・バリバリという雑音が出るようになりました。
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どうやら、今まではパチパチ雑音に隠れて目立たなかったと思います。
今度は、これを直さないといけないです。
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40dBf 以下の若干弱い電波レベルでザッザー・バリバリという雑音が出る
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オシロスコープで波形チェックすると、最終的に FM フロントエンドのミキサ部が怪しいとなりました。
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下の回路図で [MIX] と書かれているのがミキサ部です。
バランスドミクサ構成です。
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オシロのプローブで [R20] を当たるだけでザーザーという雑音が入るのです。
[R19] を当たってもそういうことはありません。
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バランス型ですから、一方で起こることはもう一方でも同じように起こるはずです。
ここがおかしい!!!
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[Q2] か [L11] [L12] が怪しいと考えました。
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[Q2] を仮に交換してみても現象は変わりませんでした。
確認後、元の FET に戻しました。
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そこで、[L11] [L12] を基板から取り外して状態を確認することにしました。
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下の写真左は基板の部品面から眺めた、上が [L11]、下が [L12] です。
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下の写真右は取り外した [L11] [L12] です。
後で検証できるよう青のマジックで L11, L12 と私が書き込みました。
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下の写真は [L11] [L12] のボトム側ですが、[L12] 内蔵のチタコンが黒くなっています。
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これはチタコンの腐食またはマイグレーションで、これが出ていると絶縁性が悪くなっています。
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絶縁性の悪化で、[レアショート]→[回復] を繰り返し、これがオーディオ出力に雑音となって出るのです。
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こうなるとチタコンを交換するしかありませんが、同じ物の入手は困難です。
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そこで [L11] [L12] のチタコンを除去して、代わりのコンデンサを外付けします。
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下の回路図は [L11] [L12] の等価回路です。
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10.7MHz LPF (ローパスフィルタ) となっています。
C1 と C2 は両方とも 82pF と思われます。
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下の写真左はチタコンを除去した [L11] [L12] です。
この状態で基板に戻しました。
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今回故障していたのは [L12] ですが、バランスを保つため [L11] のチタコンも除去しました。
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下の写真右のように温度補償 30ppm/℃ の積層セラミックコンデンサ 82pF を基板裏側に付けました。
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作業が終わってから動作チェックしてみると、雑音が完全消滅していました。
見事、直りました!!!
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感度が低下している
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上記の [L11] [L12] 対策と KT-3030 全体の再調整にて感度は大きく上がり、直りました。
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[LEVEL ボリューム] のレベル最大位置で音が途切れることがある
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エレクトロニッククリーナ
をボリュームの隙間から噴射してからボリュームをグルグル回したら直りました。
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エレクトロニッククリーナは速乾性で、接点復活剤のようなベトベトにならないのでお奨めです。
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タクトスイッチが劣化している
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操作しているうちに問題なく動作するようになったので、今回はタクトスイッチ交換を見送りました。
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リアパネルの端子類のハンダクラック予防対策
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リアパネルにある [オーディオ RCA 端子] [LEVEL ボリューム] のリードは基板にハンダ付けされているため、常にストレスが掛かっています。
これらのリードは経年変化でハンダクラックしやすいのです。
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これらのリードを補修ハンダしました。
これから先数十年は大丈夫になったと思います。
再調整
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電源電圧チェッック (VP)
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
チューナ基板 CN1-1pin |
-12V |
-12.0V |
〇 |
OP アンプ |
チューナ基板 CN1-2pin |
+12V |
+11.8V |
〇 |
チューナ全般 |
チューナ基板 CN1-3pin |
+15V |
+15.5V |
〇 |
MPX |
チューナ基板 CN1-5pin |
+5.6V |
+5.62V |
〇 |
MCU |
チューナ基板 CN1-7pin |
+54V |
+54.6V |
〇 |
VT 回路 (+B) |
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調整結果
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KT-3030 (1号機)
に記載の手順にて再調整しました。
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ステレオセパレーションなどは以下となりました。
良好な数値です。
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これをみると、できるだけ [Super Wide] で使ったほうが幸せになります。
項目 |
IF Band |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
Super Wide |
stereo |
70 |
64 |
dB |
Wide |
56 |
58 |
dB |
Narrow |
55 |
52 |
dB |
Super Narrow |
49 |
50 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
Super Wide |
mono |
0.02 |
% |
stereo |
0.03 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
Super Wide |
stereo |
-66 |
-69 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
Super Wide |
mono |
0 |
+0.12 |
dB |
REC CAL |
Super Wide |
mono |
398.4 |
Hz |
-7.2 |
-7.2 |
dB |
使ってみました
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今回の修理は非常に疲れました
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12月11日に受け取り、全ての原因判明まで2週間弱かかりました。
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私の所にくる修理依頼は重症患者が多いので諦めてますが ・・・
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別々の2箇所で雑音が同時発生していたのです。
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何が悪さしているかの見極めに長時間かかりました。
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何とか全て直せてよかったです。
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感度と音質
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感度と妨害電波排除能力は素晴らしく良いです。
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良い音です。
修理後の試聴で NHK FM の音楽に聴き惚れてしまいました。
素晴らしい!