KENWOOD KT-929 (2号機) が到着
2023年3月12日、鳥取県日野郡の U さんより KENWOOD KT-929 の修理依頼品が到着しました。
程度&動作チェック
-
修理依頼者のコメント
-
KT-929 をこの度ヤフオクでゲット出来ました。
-
受信は出来るようですが、本来の性能は保てていないと思います。
調整・修理・主要な電解コンデンサの交換をお願いします。
-
ボタンの効きにくい箇所があります。
これも修理お願いします。
-
外観
-
製造シリアル番号は [56K30709] で、電源コードの製造マーキングより [1985年製造品] とわかりました。
-
[純正 AM ループアンテナ] は添付されませんでした。
-
フロントパネルはほぼ綺麗ですが、天板への折り返し部分の左から1/3くらいの箇所に気になる線キズが2本あります。
-
リアパネルは綺麗です。
端子類には輝きが残っています。
-
天板は綺麗ですが、ビニコート鉄板にベトツキがあります。
無水アルコールで拭き取るしかないです。
-
底板にサビはなく、非常に綺麗です。
-
電源 ON してチェック
-
電源は問題なく入りました。
-
ディスプレイの輝度はやや下がっているかなという程度で、まだまだ良好に使えそうです。
-
フロントパネルの透明アクリルとディスプレイの間に少しゴミが堆積しています。
-
各ボタンの全てにチャタリングを感じます。
-
効きにくいならまだしも誤動作します。
タクトスイッチの全数交換が必要なレベルです。
-
FM 受信
-
周波数ズレはなく、問題なく受信できました。
[STEREO] 表示も点灯します。
-
FM 性能データの測定結果は以下です。
セパレーションがかなり悪化していますが、音は素晴らしく良いです。
項目 |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
stereo |
29 |
30 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
mono |
0.033 |
% |
stereo |
0.38 |
% |
-
AM 受信
-
少し感度が落ちている感じはしますが、良好に受信できました。
-
プリセットメモリは電源コードを抜いても消えません。
正常そうです。
-
カバーを開けてチェック
-
目視からは劣化がみられる部品などは見当たらず、綺麗です。
リペア
-
タクトスイッチの全数交換が必要
-
全部で11個使用しており、非常に手間がかかる作業です。
-
タクトスイッチが載っているパネル基板にアクセスするには、フロントパネルを完全に分解する必要があります。
-
タクトスイッチ1個あたりリードが5本あり、11個交換するということは55箇所のハンダを外す必要があります。
-
フロントパネルを完全に分解すると、やっと [パネル基板] [電源基板] にアクセスできます。
(左の写真)
-
手前が [パネル基板] で、後方が [電源基板] です。
-
かなり時間がかかってタクトスイッチの全数交換が完了しました。
(右の写真)
-
電解コンデンサ交換 (修理依頼者からのリクエスト)
-
交換方針
-
[電源基板上の電解コンデンサ] [オーディオ信号が通過する電解コンデンサ] を全数交換する。
-
加えて [メモリバックアップ用電解コンデンサ] を交換する。
-
[オーディオクラス] または [105℃クラス] の電解コンデンサを使う。
-
交換リスト
セクション |
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
電源基板 |
C1 |
220uF/35V (85℃) |
220uF/35V (105℃) |
C4 |
330uF/50V (85℃) |
330uF/50V (FG) |
C5 |
47uF/35V (85℃) |
100uF/35V (105℃) |
C9 |
2200uF/25V (85℃) |
2200uF/35V (105℃) |
C10 |
1000uF/35V (85℃) |
1000uF/50V (FG) |
C11 |
47uF/25V (85℃) |
47uF/25V (105℃) |
C12 |
47uF/25V (85℃) |
47uF/25V (105℃) |
C13 |
10uF/16V (85℃) |
10uF/16V (105℃) |
C14 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (FG) |
C15 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (FG) |
C16 |
33uF/16V (85℃) |
33uF/25V (FG) |
C17 |
33uF/16V (85℃) |
33uF/25V (FG) |
C18 |
470uF/16V (85℃) |
470uF/16V (105℃) |
C20 |
47uF/10V (85℃) |
47uF/25V (FG) |
C21 |
47uF/10V (85℃) |
47uF/25V (FG) |
C22 |
0.47uF/50V (BP) |
0.47uF/50V (MUSE) (BP) |
検波回路 |
C45 |
100uF/10V (85℃) |
100uF/35V (105℃) |
C53 |
22uF/16V (BP) |
22uF/25V (MUSE) (BP) |
MPX 回路 |
C64 |
0.47uF/50V (85℃) |
0.47uF/50V (FG) |
C65 |
3.3uF/25V (85℃) |
3.3uF/50V (MUSE) (BP) |
C66 |
2.2uF/50V (85℃) |
3.3uF/50V (MUSE) (BP) |
C70 |
470uF/16V (85℃) |
470uF/16V (105℃) |
オ−ディオ回路 |
C77 |
22uF/16V (BP) |
22uF/25V (MUSE) (BP) |
C78 |
22uF/16V (BP) |
22uF/25V (MUSE) (BP) |
C79 |
10uF/16V (BP) |
10uF/25V (MUSE) (BP) |
C80 |
10uF/16V (BP) |
10uF/25V (MUSE) (BP) |
メモリバックアップ |
C109 |
2200uF/16V (85℃) |
3300uF/16V (105℃) |
パネル基板 |
C133 |
100uF/10V (85℃) |
100uF/16V (105℃) |
-
[電源基板] に載っていた電解コンデンサは全数交換しました。
(左の写真)
-
検波回路の電解コンデンサの一部を交換しました。
緑色の電解コンデンサとその右の電解コンデンサです。
(右の写真)
-
MPX 回路の電解コンデンサを全数交換しました。
(左の写真)
-
オーディオ回路の電解コンデンサを全数交換しました。
(右の写真)
-
プリセットメモリバックアップ用電解コンデンサを交換しました。
一番大きな電解コンデンサです。
(左の写真)
-
2200uF→3300uF へ容量アップしたので、電源コードを抜いても5日間程度はバックアップできるかも?
-
交換前に基板に載っていた電解コンデンサとタクトスイッチです。
(右の写真)
-
ハンダクラック対策 (予防保守)
-
KT-929 のリアパネルにあるオーディオ出力 RCA 端子のリードはチューナ基板に直接ハンダ付けされています。
-
リアパネルとチューナ基板より常に力のストレスがかかっているので、ハンダ付け部分にクラックが発生しやすいです。
-
RCA 端子のリードのハンダ付け部分を補修ハンダ付けしました。
-
ディスプレイ周りの塵埃
-
フロントパネルを分解したついでにパネル内を無水アルコールで清掃しました。
-
到着時よりクッキリ&ハッキリと表示が見えるようになりました。
-
拭き取ったウェスには黄色の汚れが付いたので、タバコのヤニで汚れていたのかもしれません。
-
天板のビニコート鉄板にベトツキきがある
-
無水アルコールでビニールから湧き出した粘液を拭き取り、ほぼ問題がない状態になりました。
-
フロントパネルの天板への折り返し部分に線キズが2本ある
-
自動車用のタッチペン艶消し黒で補修塗りして、少しマシになりました。
再調整
-
電源電圧チェック (VP)
-
チューナ基板上のジャンパーで測定します。
修理後の電源電圧の実測値は以下のように正常でした。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
J91 |
+13V |
+12.5V |
〇 |
チューナ用 |
J93 |
+5.6V |
+5.64V |
〇 |
デジタル用 |
J94 |
+30V |
+29.4V |
〇 |
VT 用 |
-
FM/AM 受信部の調整
-
調整結果
-
[FM フロントエンド] [PLL 検波] [DCC 歪補正] で大きく調整ズレしていました。
再調整で感度と音質が大きく向上しました。
-
FM ステレオセパレーションは 以下となりました。
素晴らしい数値
です。
-
やはり、
KT-929 は隠れた名機
と思います。
項目 |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
stereo |
70 |
70 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
mono |
0.013 |
% |
stereo |
0.021 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
stereo |
-71 |
-74 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
mono |
0 |
+0.08 |
dB |
-
AM は再調整により、受信感度が大きく向上しました。
-
ただし、[純正 AM ループアンテナ] の添付がなかったので、手持ちの汎用ループアンテナで再調整しています。
-
AM の場合、ループアンテナも同調回路の一部なので、純正ループアンテナで使うと最高感度にならない可能性があります。
使ってみました
-
デザイン
-
無駄がない感じがするシンプルな顔をしています。
-
操作系は極めてシンプル
-
通常は FM/AM を選択してプリセットボタン (選局) を押すだけです。
-
放送局のプリセットメモリは FM 6局+AM 6局分しかなく、ちょっと少ないです。
-
FM アンテナ入力は F 端子なので外来ノイズに強いです。
-
FM の感度と音質
-
FM の感度、セパレーション、音質とも非常に良く、手抜きがなくキチンと作られています。
-
FM の音質は特筆もので、おそらく、ブラインドテストしたら高級機と聴き分けできないと思います。
-
天にも昇る心地の良い、さわやかで歪感の全くない音です。
ともかく音がクリアなのです。
本当に惚れ惚れします。
-
AM の感度と音質
-
感度はかなり良いです。
-
[AM IF BAND] ボリュームで IF 帯域を連続的に可変できます。
WIDE 端で聴く AM 放送はビックリするほど音が良いです。