Pioneer F-500 (4号機)

Pioneer F-500 (4号機) が到着

2023年2月20日、神戸市の H さんから Pioneer F-500 の修理依頼品が到着しました。

パルスカウント検波 の FM/AM チューナです。

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程度＆動作チェック

1. 修理依頼者のコメント
   
   
   • 中古品を入手し､通電･完動していますが、以下の状態です。
     
     
     • いわゆる音が｢眠い｣
       
       
     • AM の受信感度が低い
       
       
     • FM のメータ読み周波数表示がだいたい 0.1MHz ほど低い (86.5MHz の NHK 神戸 FM が メータ 86.4MHz ほどで同調)
       
       
   • コンデンサ抜けも当然あるでしょうし､この先十数年ス パンで使えるよう必要な調整や部品交換をお願いします｡
     
     
2. 外観
   
   
   • F-500 の元箱に入って送られて来ました。 この元箱は貴重です。
     
     
   • 製造シリアル番号は [AG1015753M] で、電源コードの製造マーキングより [1980年製造品] とわかりました。
     
     
   • 全体的に新品同様に綺麗です。 製造後43年 (2023年現在) で この綺麗さは奇跡 かもしれません。
     
     
   • [フロントパネル] [リアパネル] [天板] にキズやスレは全くなく、新品同様です。
     
     
   • [底板] は綺麗なのですが、4箇所に何やらセロテープが貼りついています。
     
     
   • 各スイッチにサビはありません。 [同調ノブ] [ダイヤル指針] の動きはスムーズです。
     
     
   • リアパネルの端子類は新品のようにピカピカ輝いています。
     
     
3. 電源 ON してチェック
   
   
   • 電源は正常に ON できました。 ランプ切れはないです。 各スイッチの動作も正常そうです。
     
     
   • FM 受信
     
     
     • 79MHz 以上の放送局は普通に受信でき [STEREO] ランプも点灯します。
       
       
       • 修理依頼者のコメントにある [音が眠い] は確認できず、良音です。 何をもって [音が眠い] と言われているのか不明？？？
         
         
     • 79MHz 以下では、以下の不具合があります。
       
       
       • [同調ノブ] を回すとボソボソというノイズが出ます。
         
         
       • なんとか受信できるのですが、[T メータ] [S メータ] の動きが定まらず同調しにくいです。
         
         
       • 受信できた時は [STEREO] ランプも点灯します。
         
         
     • 79.5MHz の放送が 79.4MHz、89.7MHz の放送が 89.44MHz で受信します。 全体に -0.1MHz 程度の周波数ズレがありそうです。
       
       
     • 再調整前のセパレーションと歪率を測定してみました。
       
       
       • 製造後43年 (2023年現在) 経っている割にはマトモな性能を保持しています。
         
         

       項目	IF BAND	stereo/mono	L	R	単位
       ステレオセパレーション (1kHz)	WIDE	stereo	41	47	dB
       	NARROW		41	45	dB
       高調波歪率 (1kHz)	WIDE	mono	0.03		%
       		stereo	0.03		%
       	NARROW	mono	0.16		%
       		stereo	0.16		%

       
       
   • AM 受信
     
     
     • 普通に受信でき、修理依頼者の言う [AM の受信感度が低い] 感じはしないです。
       
       
4. カバーを開けて内部をチェック
   
   
   • メチャメチャ綺麗です。 部品にも輝きがあります。
     
     
   • バリコンのギア機構のプーリー軸を手で引くとスッポリ抜けます。
     
     
   • 右の写真で黄色矢印の先に隙間が見えますが、隙間がないのが正しいです。
     
     
   • 放置するとプーリーごと脱落するかもしれません。 対策が必要 です。
     
     

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リペア

1. FM の 79MHz 以下で [同調] ノブを回すとボソボソという雑音が出る
   
   
   • 原因は、バリコン軸の接触不良です。 目視でハッキリわかる緑青錆が出ていました。
     
     
   • 以下のように修理しました。
     
     
     1. エレクトロニッククリーナ でバリコン軸と接触プレートを洗浄しました。
        
        
     2. すると、緑青錆がボロボロと大量に湧き出したので。これを丹念に除去しました。
        
        
     3. 最後に CRC 5-56 で潤滑＆防錆処置をしました。
        
        
   • 修理の結果、ボソボソ雑音は解消しました。 同時に以下の不具合も直りました。
     
     
     • [T メータ] [S メータ] の動きが定まらず同調しにくい症状。
       
       
2. AM の感度が悪い ・・・ 修理依頼者のコメント
   
   
   • 感度が悪いとは思えませんでしたが、再調整で少し感度アップしました。
     
     
   • FM の S メータの振れ方に比較し、AM の S メータの振れ方は控え目です。
     
     
3. 電解コンデンサ交換
   
   
   • オーディオ信号が通過する電解コンデンサを一斉交換しました。
     
     
     • 適切に交換すれば音質が向上することが F-500 (2号機) で確認できています。
       
       
     • [パルスカウント検波]→[MPX] のルートは DC 結合になっているので、[MPX] 以降の電解コンデンサ交換となります。
       
       
   • 本機は製造から43年経っている (2023年現在) ので、予防保守として電源の電解コンデンサも一緒に交換しました。
     
     
     • 105℃クラス品を使用して信頼性を向上しました。
       
       
   • 電解コンデンサ交換リストは以下です。
     
     

     区分	交換前		交換後		備考
     	定数	員数	定数	員数
     MPX	0.47uF/50V	1	0.47uF/50V	1	積層セラミックコンデンサに交換 (30ppm 温度補償型)
     	1uF/50V	1	1uF/50V	1
     	1uF/50V	4	1uF/50V (MUSE/ES) (BP)	4	オーディオクラス電解コンデンサに交換
     	4.7uF/50V	2	22uF/25V (MUSE/ES) (BP)	4
     	10uF/16V	2
     電源	100uF/10V (85℃)	1	100uF/35V (105℃)	2	105℃クラスに交換
     	100uF/16V (85℃)	1
     	220uF/16V (85℃)	2	680uF/25V (105℃)	3
     	470uF/16V (85℃)	1
     	2200uF/25V (85℃)	1	3300uF/50V (105℃)	1

     
     
   • 下の左の写真は [MPX] の部分で、赤〇で囲んだコンデンサが交換済みです。 青色のものは積層セラミックコンデンサです。
     
     
   • 下の左の写真は [電源] の部分で、赤〇で囲んだコンデンサが交換済みです。
     
     　
     
     
   • 下の左の写真は パルスカウント検波の部分で、赤〇で囲んだコンデンサが交換済みです。 (電源バイパス用)
     
     
   • 下の左の写真は、これまで基板に実装されていた電解コンデンサです。
     
     　
     
     
4. バリコンのギア機構のプーリー軸の脱落防止処置
   
   
   • バリコンメーカに修理依頼して軸を固定してもらえばよいのですが、それは難しいです。
     
     
   • 要はプーリーが飛び出さないよう右から押さえ込めばよいのです。
     
     
     • プ−リーの右側には天板の側面があります。 側面とプーリーの隙間に厚板を入れれば押さえ込みできます。
       
       
     • 側面とプーリーの隙間は 3mm だったので、厚みは 2.5mm がよいです。
       
       
   • 厚板には 特注アクリル板 を使います。
     
     
     • アクリルを使うのはプーリーとの接触摩擦を軽減するためです。
       
       
     • プーリー軸外れ防止に使うアクリル板は既に発注して在庫しています。
       
       
     • 大きさは 50×50mm で、[1mm] [1.5mm] [5mm] 厚の3種類あります。
       
       
     • 今回は [1.5mm] と [1mm] 厚を貼り合わせて 2.5mm 厚として使います。
       
       
   • 右の写真が完成です。
     
     
     • 天板をネジ留めすると、写真のアクリル板がプーリーを押さえ込んでくれます。
       
       
5. 全体に -0.1MHz 程度の周波数ズレがある
   
   
   • 78MHz/88MHz をトラッキングポイントとして再調整しました。
     
     
   • 結果、79.5MHz の放送が 79.5MHz、89.7MHz の放送が 89.56MHz で受信するよう改善しました。
     
     
   • この F-500 のバリコンは 89MHz 以上で誤差が大きくなるようです。
     
     
   • いずれにせよ、バリコンの精度以上には調整できず、全受信周波数帯域で周波数ズレをゼロにはできません。
     
     
6. ハンダクラック対策
   
   
   • リアパネルの端子のリードは基板に直接ハンダ付けされています。
     
     
   • リードにはリアパネルからストレスがかかるので、ハンダクラックしやすいです。
     
     
   • 予防保守として、ハンダ付け部分を補修ハンダ付けしました。
     
     
7. [底板] に何やらセロテープが貼りついている
   
   
   • 不要であり汚らしいのでセロテープを除去しました。
     
     
   • 無水アルコールではセロテープ跡が洗浄できなかったので、アセトンで洗浄しました。
     
     

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再調整

1. 電源電圧チェッック (VP)
   
   
   • 基板左下で、右の写真の矢印で示したジャンパと GND 間の電圧を測定します。
     
     
   • 実測値は以下のように正常でした。
     
     

     VP	標準値	実測値	判定
     右の写真の矢印で示したジャンパ	+14V	+13.4V	〇

     
     
2. 調整結果
   
   
   • F-500 (1号機) に記載の調整手順で再調整しました。
     
     
   • FM フロントエンドでズレがあり、再調整で少し感度アップしました。
     
     
   • ステレオセパレーションや高調波歪率などは以下となりました。
     
     
   • 再調整前と比べると大きく向上したことがわかります かなり良好な数値です。
     
     

     項目	IF BAND	stereo/mono	L	R	単位
     ステレオセパレーション (1kHz)	WIDE	stereo	58	55	dB
     	NARROW		59	56	dB
     高調波歪率 (1kHz)	WIDE	mono	0.02		%
     		stereo	0.02		%
     	NARROW	mono	0.08		%
     		stereo	0.08		%
     パイロット信号キャリアリーク	WIDE	stereo	-70	-68	dB
     オーディオ出力レベル偏差	WIDE	mono	0	+0.08	dB
     REC LEVEL CHECK 信号	WIDE	mono	351.6		Hz
     			-6.0	-6.0	dB

     
     
   • AM は IF 部の再調整により、少し感度アップしました。
     
     

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使ってみました

1. デザイン
   
   
   • F-500 は何度見ても実に美しいデザインです。 ホレボレします。 しかも上品です。
     
     
   • フロントパネルの薄緑の照明が独特な雰囲気を醸し出します。
     
     
   • 指針は光って見やすいドット表示です。
     
     
   • FM アンテナ入力は F 端子なので、雑音電波が混入しないです。
     
     
2. 電解コンデンサを交換して FM の音質が向上
   
   
   • 電解コンデンサ交換前でも高音質でしたが、交換後は音に艶が出たように感じます。
     
     
   • 歪の少ないカッチリした音なのに柔らかさもあります。 音の分離が良いです。
     
     
   • パルスカウント検波の音は、やはり良いです。
     
     
3. AM は十分な感度とそれなりの音質
   
   
   • [IF BAND] を [WIDE] にすると結構良い音です。
     
     

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