Pioneer F-717 (3号機) が到着
2023年6月26日、大阪市の K さんより
Pioneer F-717
の修理依頼品が到着しました。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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購入時期は忘れましたが新品にて購入しました。
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純正ループアンテナをつないでも AM を受信しません。
接点を磨いてみましたが効果ありませんでした。
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FM は受信できていますが感度が落ちているように思われます
CATV 経由受信で、屋内での4分配による減衰のため?
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外観
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製造シリアル番号は [OBD07588] で、電源コードの製造マーキングより [1988年製造] と判明しました。
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[純正 AM ループアンテナ] が添付されていました。
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天板はかなり汚れがありますが、致命的なヘコミやキズはないです。
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フロントパネルの透明アクリル板に線キズ、アルミ部分に小さな当てキズがありますが、全体的には並の中古状態です。
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リアパネルの端子類にはサビが出ていますが、赤サビではなく灰色っぽいサビです。
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電源 ON してチェック
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電源は良好に入り、ディスプレイは新品同様な輝度で良好に表示されます。
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各ボタンにはチャタリングを感じますが操作できないことはないです。
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FM は 周波数ズレなく、[STEREO] 表示され、受信できますが感度が大きく低下しています。
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AM は全く受信できません。
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[REC LEVEL CHECK] ボタン ON で正常にテスト音が出ます。
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カバーを開けてチェック
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内部は綺麗ですが、以下の劣化が見られます。
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リアパネルにあるオーディオ出力 RCA 端子が瞬間接着剤で修理されていますが、ワレが見られます。
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電源部の電解コンデンサ [C404] 470uF/50V の被覆が放熱板からの熱で縮んでいます。
劣化が進んでいると思います。
リペア
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AM が全く受信できまない
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VT 電圧がどの周波数でも 27V のままでした。
OSC 発振が停止して故障しています。
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原因は OSC トリマコンデンサの短絡故障でした。
トリマコンデンサ交換で直りました。
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左の写真は [AM 基板] で、赤〇で囲んだトリマコンデンサの下側が短絡故障していました。
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右の写真はトリマコンデンサ交換後で、OSC および RF の両方交換しました。
容量はどちらも 20pF です。
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交換後は AM をバリバリ受信できるようになって、直りました。
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FM の感度が大きく低下している
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FM フロントエンドをチェックしたところ、3個ある RF トリマコンデンサの1個が完全に容量抜けしていました。
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左の写真の赤〇で囲んだ RF トリマコンデンサのうち、一番左のものが故障していました。
これが原因です。
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右の写真はトリマコンデンサ交換後で、3個とも交換しました。
容量は全て 10pF です。
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交換後は FM の感度が復活して、直りました。
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電源部の電解コンデンサ [C404] 470uF/50V の被覆が放熱板からの熱で縮んで劣化している
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被覆が縮んだ [C404] は2枚の放熱板に囲まれた場所にあります。
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隣の [C403] も同じような場所にあって心配です。
よって、2個とも交換しました。
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耐熱特性は 85℃→105℃ に上げ、かつサイズが小さくなって風通しが良くなるので信頼性が上がります。
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
C403 |
220uF/50V (85℃) |
470uF/50V (105℃) |
105℃クラスに交換 |
C404 |
470uF/50V (85℃) |
470uF/50V (105℃) |
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左の写真が交換前で、右の写真が交換後です。
傾けて取り付けしていますが、これは少しでも放熱板より離すためです。
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その他のリペアなど
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RCA 端子が瞬間接着剤で修理されていているがワレが見られる。
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瞬間接着剤はワレの修理には向きません。
一時的に直ってもしばらくすると再度割れます。
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一度割れたプラスチックはタップネジ留めは無理なので、プラスチックのネジ穴部分を広げ M3 ネジと平ワッシャで留めます。
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左の写真のように弾力性のある G17 ボンドと M3 ネジと平ワッシャで補修しました。
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基板を留めるネジの1本が別のネジになっていた。
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右の写真のように、手持ちの正規のネジに交換しました。
写真の中央に見えるネジです。
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[T103] のフロント側のコアが割れている。
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コアが自然に割れることはなく、誰かがいじって壊したのでしょう。
左の写真の手前側です。
手持ちのコアと交換しました。
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割れたコアを除去するのは大仕事です。
割れたコアはコアドライバでは回せないので破壊するしかないです。
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コイルのボビンを壊さないないよう慎重にコアを少しずつ破壊していきます。
コアはもろい焼物のようなものです。
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かなり時間がかかりましたが完全に除去でき、新しいコアを入れることができました。
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右の写真は今回の修理で交換前に基板に実装されていた部品です。
記念撮影です。
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左から [電解コンデンサ×2個] [AM トリマコンデンサ×2個] [FM トリマコンデンサ×3個] です。
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天板にかなり汚れがある
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天板を中性洗剤を使って水洗いし、かなりマシになりました。
再調整
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電源電圧チェッック (VP)
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実測値は以下のように良好でした。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
TP17 |
+13V |
+13.6V |
〇 |
チューナ全般 |
CN501-1pin |
+5.6V |
+5.62V |
〇 |
MCU |
CN501-4pin |
-8V |
-8.78V |
〇 |
FL |
R401 左側 |
+27V |
+28.2V |
〇 |
VT 用電圧 |
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FM/AM 受信部の調整
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調整結果
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全体的にあちこちズレまくっていました。
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再調整前はステレオセパレーションが 30dB 程度しかありませんでしたが、下のように大きく改善しました。
項目 |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
stereo |
70 |
70 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
mono |
0.015 |
% |
stereo |
0.015 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
stereo |
-54 |
-50 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
mono |
0 |
+0.02 |
dB |
REC LEVEL CHECK 信号 |
mono |
304.7 |
Hz |
-5.8 |
dB |
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AM は [純正 ループアンンテナ] で最高感度になるよう調整しました。
使ってみました
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修理が終わっての感想
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今回は以前にいじくっている以下の状態が醜かったです。
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RCA 端子を瞬間接着剤で手直ししている → 再度ワレ発生!
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基板取付ネジの1本が別物になっている → キチンと留まっていなかった!
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[T103] のコアが割れている → 割れたまま放置!
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修理依頼者にこの状況を確認したところ ・・・
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修理依頼者のほうではいじくっていないが、2000年3月にパイオニアサービスで修理してもらっているとのこと。
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メーカサービスでもこういうことがあるのですね。
修理と一緒に不良を作り込んでくれるとは。
同情します。
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デザイン
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やはり、Pioneer のシンセサイザチューナの最高峰は F-717 です。
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F-717 に続く、F-757 や F-777 ではありません。
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[ノンスペクトラム IF] と [PLL 検波] で高性能です。
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プリセットメモリは24局分あります。
十分です。
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FM アンテナ用 F 端子が2個あって、アンテナを2系統から選択できます。
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感度と音質
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FM の感度は良く、繊細な良い音です。
特にボーカルで素晴らしい声を聴かせてくれます。
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AM の感度は良く、S/N も良いです。
音は AM としては普通レベルです。