Pioneer F-C3 (3号機) をゲット!
2022年11月14日、東京都台東区の O さんより
Pioneer F-C3
の故障品×2台の寄贈を受けました。
1台は本記事の [3号機] で、外観はマシで動作はするがバリバリという雑音が入ります。
もう1台は [ドナー機] で、外観がボロボロで [power] ボタンを押しても電源 ON になりません。
[ドナー機] はあまりにもボロボロなので修理する気にならず、[3号機] を修理するための部品取りマシンとします。
まさに [ドナー機] です。
程度&動作チェック
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寄贈者のコメント
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FM/AM とも動作するが、常時、音にバリバリという雑音が入る。
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外観
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製造番号は [NJ1000595S] で、AC コードの製造マーキングより [1993年製造品] と判明しました。
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[純正 AM ループアンテナ] は添付されていませんでした。
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フロントパネル右下のブラスチック部分に僅かなキズはありますが綺麗です。
表示部分のスモークアクリル部分も綺麗です。
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リアパネルは綺麗です。
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天板のフロント側右上に僅かな変形がありますが修復可能そうです。
少し汚れはありますが綺麗です。
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底板は綺麗ですが、脚が4個とも滑り止め部分が劣化しています。
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電源 ON してチェック
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電源 ON でき、FL 表示器は新品同様の輝度があります。
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FM は受信できましたが、-0.2MHz の同調ズレがあり、[STEREO] 表示が点滅します。
鼻づまりのような歪が多い音です。
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AM は手持ちのループアンテナで受信でき、[STEREO] 表示が出ました。
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FM/AM ともボソボソやバリバリという雑音が入ります。
左右チャンネル同時に同じように雑音が入っています。
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カバーを開けてチェック
リペア
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FM で -0.2MHz の同調ズレがある
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[T102] を仮調整して同調ズレは直り、[STEREO] 表示も [点滅]→[点灯] になりました。
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ボソボソやバリバリという雑音は入ったままで、雑音が大きい時は [STEREO] 表示がチラつきます。
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この写真はリペア中の様子です。
底板を外すと全ての部品にアクセスできるようになります。
この意味ではメンテンス性が良いと言えます。
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FM/AM ともボソボソやバリバリという雑音が入る
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[FM/AM ともに雑音が入る] [左右チャンネル同時に同じ雑音が出る] [雑音が大きい時は STEREO 表示がチラつく] に注目しました。
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注目点より、[検波より後] [MPX より前] にある FM/AM 共通部が発生源と考えられます。
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この条件に合致する場所はアンチバーディフィルタで、これの故障の可能性が高いです。
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左の写真はアンチバーディフィルタの実装部分で、右はその回路です。
写真で黒いコアの [F105] がアンチバーディフィルタです。
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アンチバーディフィルタの [F105] を基板から取り外しました。
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まずは この状態で電解コンデンサを介して入出力をジャンパしてみたら雑音が消えました。
[F105] 故障確定!
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[F105] を [ドナー機]→[3号機] に移植するので、[ドナー機] の [F105] も基板から取り外しました。
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左は [3号機] のもので、右は [ドナー機] のものです。
パーツ番号は [3368-1088] でどちらも同じです。
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裏返して内蔵チタコンを観察すると [3号機] のものは真っ黒です。
中央で水平方向のチクワみたいな部品がチタコンです。
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真っ黒になった原因はマイグレーションで、金属カビみたいなものです。
マイグレーションはチタコンを絶縁劣化させます。
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マイグレーションは非常に薄い膜で [短絡]→[電流が流れて開放]→[短絡] を繰り返し、これが雑音となるのです。
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チタコンを容量測定すると、[3号機] のものは 668pF で、[ドナー機] のものは 697pF でした。
設計値は 680pF でしょう。
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「F105] を [ドナー機]→[3号機] へ移植しました。
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当たり前ですが、ボソボソ・バリバリ雑音不具合は完全に直りました!!!
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[鼻づまりのような歪が多い音がする] 現象も同時に直りました。
もう素敵な良い音です。
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[C302] 電解コンデンサのハンダ付け不良
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誰かが電源部の電解コンデンサ [C302] を [2200uF/35V/85℃]→[2200uF/50V/105℃] に交換していました。
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交換するのは構わないのですが、ハンダ付け不良でシッカリ付いておらずグラグラしていました。
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ハンダ付けを補修して直りました。
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4個の [脚] を [ドナー機]→[3号機] へ移植
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[脚] だけは [ドナー機] のほうが状態が良かったためです。
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ハンダクラック予防
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リアパネルにある端子類のリードは [メイン基板] に直接ハンダ付けされています。
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このハンダ付け部分には [リアパネル] と [メイン基板] から常にストレスがかかるのでハンダクラックしやすいのです。
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ハンダ付け部分を補修ハンダ付けしてクラックを予防しました。
再調整
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電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように正常でした
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
+12V と書かれたジャンパ線 |
+12V |
+11.3V |
〇 |
チューナ全般 |
+5.6V と書かれたジャンパ線 |
+5.6V |
+5.38V |
〇 |
MCU |
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FM/AM 受信部の調整
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調整結果
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FM の測定値は以下となりました。
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セパレーション調整できない機種の割には良好なステレオセパレーションです。
当たりの個体でしょう。
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キャリアリークはキャンセル回路やフィルタがないので良くないです。
仕方ないです。
項目 |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
stereo |
50 |
47 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
mono |
0.24 |
% |
stereo |
0.24 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
stereo |
-32 |
-31 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
mono |
0 |
-0.12 |
dB |
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AM はループアンテナが添付されていなかったので、手持ちのループアンテナで最高感度になるよう調整しました。
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良好な感度と良好な音質が蘇りました。
ニッポン放送 (1242kHz) ではちゃんと [STEREO] 表示が出ます。
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手持ちのループアンテナで調整したので、純正のループアンテナでは感度が落ちると思います。
使ってみました
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デザイン
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ローコスト作りですが、それほど安物臭さはありません。
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フロントパネルの大部分はプラスチック製です。
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操作部にはヘヤラインアルミ材が使われています。
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このクラスでは良いほうかと思います。
リアパネルもしっかりしています。
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プリセットメモリは36局分もあり十分過ぎです。
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FM/AM ランダムにメモリできます。
stereo/mono の状態も記憶してくれます。
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プリセットの書き込みは、目的の放送局を受信状態にし、[Memory] ボタンを押して [+] [-] ボタンでメモリ番号を選択します。
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プリセットの呼び出しは、[Freq/Station] ボタンを押して [+] [-] ボタンでメモリ番号を選択します。
操作が面倒です。
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[AM Mode] ボタンで Wide/Narrow が切換できるのですが、FM の Wide/Narrow の切換はありません。
変なの???
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電波信号強度表示がありません。
ミューティング機能もありません。
かなりの手抜きチューナです。
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感度や音質
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AM の音質は定評通りビックリするほど良い
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大袈裟に言えば FM 並みの音質です。
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ステレオ感があり、高音がスッキリ伸びています。
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感度も良く、AM stereo チューナとしてお奨めできる機種です。
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FM の音質はそこそこ良く、定価を超える音
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ステレオ感があり、聴き疲れしないです。
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フロントエンドは4連バリキャップなので、妨害にも強く、弱電波を受信した時の S/N が良いです。
感度も良いです。
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定価を考えるとコストパーフォーマンスは高く、FM/AM チューナとして十分実用的です。
オマケ:[ドナー機] で電源 ON できない原因
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F-C3 の電源 ON シーケンス
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電源 OFF の時に [power] ボタンを押すと、この信号が MCU に伝達される。
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MCU は [1] の信号を受け取り、[POWER] 信号を出力する。
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[POWER] 信号によって [電源スイッチトランジスタ] が起動して電源 ON となる。
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F-C3 の電源 OFF シーケンス
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電源 ON の時に [power] ボタンを押すと、この信号が MCU に伝達される。
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MCU は [1] の信号を受け取り、[POWER] 信号を停止する。
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[POWER] 信号の停止によって [電源スイッチトランジスタ] も停止して電源 OFF となる。
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すなわち、MCU が動作していないと電源 ON/OFF できないのです
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この観点で調べてみると、MCU のクロック発振部が停止していました。
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MCU そのものか [X201] 4.19MHz セラロックが故障しています。
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セラロックを仮交換してみましたが、クロック発振は停止したままです。
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こうなると MCU 故障確定です。
MCU にはファームウェアが書き込まれており、pioneer から指定品を購入しないと交換できません。
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よって、[ドナー機] は修理不可です。
やはり部品取りマシンとしての用途しかなかったようです。