Pioneer TX-8900 (3号機) が到着
2023年6月29日、東京都文京区の I さんから
Pioneer TX-8900
の修理依頼品が2台到着しました。
本機はそのうちの1台です。
この写真は照明 LED 化後です。
PBLD 検波
搭載の FM/AM チューナです。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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電源もメータも動く動作品です。
リアパネルの端子にはサビがあります。
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FM アンテナ端子を F 端子に改造してほしいです。
また、RCA 端子も金メッキ端子に交換してほしいです。
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照明を LED 化してほしいです。
電解コンデンサを交換してほしいです。
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外観
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製造シリアル番号は [VE1011565] で、電源コードの製造マーキングより [1974年製造品] と判明しました。
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フロントパネルは概ね綺麗ですが、左下の角が少し変形しています。
天板は綺麗です。
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リアパネルのアンテナ端子に赤サビ、RCA 端子に灰色っぽいサビが出ています。
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電源 ON してチェック
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電源は問題なく入り、ランプ切れはないです。
各スイッチの動作も正常そうです。
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FM は [S メータ] のピークと [T メータ] のセンタが合いません。
[T メータ] のセンタ位置では歪が多いです。
同調点ズレしています。
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AM は問題なく受信できました。
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電源 ON してしばらく問題なく受信できていたのですが、10分くらい経ってから以下の現象が出ました。
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10分後に右チャンネルからバリバリという雑音が出るようになりました。
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20分後に左チャンネルから音が出なくなりました。
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30分後に右チャンネルの音が出なくなり、これで両チャンネルとも無音になりました。
音の出ないチューナは使い辛い!
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以上の現象は FM/AM いずれでも出ます。
[FUNCTION] スイッチを [REC LEVEL CHECK] にしても音が出ません。
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この時でも [S メータ] [T メータ] [STEREO ランプ] の反応は正常です。
ただ音が出ないのです。
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時々、左右からバリバリという雑音が出ます。
MUTING 状態になっている訳ではなさそうです。
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カバーを開けてチェック
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内部には綿埃が堆積していますが、基板自体は綺麗です。
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[AF 基板] [チューナ基板] にはタンタルコンデンサが多数使われています。
オーディオ用電解コンデンサに交換したほうがよいです。
リペア (その1):通電後不具合がポロポロ発生 → 修理
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左右とも音が出ない
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[REC LEVEL CHECK] 音も出ないとなると [AF 基板] 実装のトランジスタ故障しかありません。
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[AF 基板] 実装のトランジスタを全数交換して直りました。
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この対策をして音は出るようになりましたが、
時々、左チャンネルだけにガサガサ雑音が出ます!!!
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おそらく、この現象も同時発生していたのです。
音が出るようになって顕在化しただけと思います。
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左チャンネルだけにガサガサ雑音が出る
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[AF 基板] のトランジスタは全数交換済みなので、この基板に要因はないと思います。
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FM 受信で雑音が出ている時に AM 受信に切り換えてみたら雑音は出ません。
再び FM 受信に切り換えると雑音が出ます。
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こうなると、[MPX 基板] に要因があることになります。
[MPX 基板] のトランジスタを全数交換したら直りました。
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この対策をして機嫌よく FM 放送を楽しんでいたら、1時間くらい経ってから、
両チャンネルからバリバリ雑音が出るようになりました!!!
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両チャンネルからバリバリ雑音が出る
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これまでの現象と違って [STEREO] ランプも点滅します。
[MULTIPATH-H] 端子で聞いても雑音が出ています。
新たな故障です。
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こうなると、[チューナ基板] の PBLD 検波回路に要因があることになります。
[Q9] [Q10] のトランジスタを交換したら直りました。
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この対策をして機嫌よく FM 放送を楽しんでいたら、4時間くらい経ってから、
[STEREO] ランプがたまに点滅するようになりました!!!
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[STEREO] ランプがたまに点滅する
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[STEREO] ランプが点滅しても実際の音はステレオのままです。
単純にランプ表示だけの問題です。
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オシロスコープを使って原因追求すると、[MPX 基板] の12番端子に来ている信号がたまに +2V くらいになり、この時に [STEREO] ランプが消えます。
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この信号は [チューナ基板] から来ており、局間ノイズがある時 (すなわち同調してない時)に +13V になる信号です。
局間ノイズがない時 (すなわち同調している時) は 0V です。
+13V/0V の2値しかありえないのに +2V になるのがおかしいのです。
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[チューナ基板] の [Q14] トランジスタを交換したら直りました。
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これだけポロポロとトランジスタの動作不良が出ると、全部のトランジスタの信頼性を疑わざるを得ません。
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これまでに、[AF 基板] [MPX 基板] については既にトランジスタ全数交換済みです。
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残りの [チューナ基板] [電源基板] のトランジスタもほぼ全数交換しました。
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交換リストは
TX-8900 (2号機)
と同じなので、そちらを参照ください。
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トランジスタ全数交換後はすこぶる快調で、首をかしげるような不具合は出ていません。
完全に直ったと思います。
リペア (その2):F 端子増設 ・・・ 修理依頼者の要求
リペア (その3):照明 LED 化 ・・・ 修理依頼者の要求
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TX-8900 (2号機)
と全く同じ方法で全てのフィラメントランプを LED 化しました。
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[POWER] [STEREO] ランプが
TX-8900 (2号機)
より暗いです。
LED 化前のフィラメントランプの時も暗かったです。
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原因はラバーランプホルダの変形です。
フィラメントランプだった時のランプの熱でホルダがグニャと変形したのです。
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ランプホルダを交換しないと直りません。
本機は半世紀物で同じ部品の入手は無理です。
どうしようもないです。
リペア (その4):電解コンデンサ交換 ・・・ 修理依頼者の要求
リペア (その5):RCA 端子交換 ・・・ 修理依頼者の要求
リペア (その6):その他
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マイグレーション対策
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IC とトランジスタの足にワニス塗装して将来のマイグレーション発生を予防しました。
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要は金属部分 (足) が酸化しないければマイグレーションは発生しない訳で、ワニスコーティングで空気に直接触れないようにしたのです。
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今回使用したワニスの長期的な試験はできていないのですが、少なくともマシにはなったと思います。
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バリコン軸の接触不良対策
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本機は49年物ビンテージ (2023年現在) です。
バリコン軸の接触不良回復はやるべきです。
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを爪楊枝で丹念に落とします。
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[1] と [2] を何度も何度も繰り返します。
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仕上げに、軸受けに
CRC 5-56
を塗布して防錆処置します。
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結構手間がかかりましたが、以上で回復しました。
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フロントパネルの透明ガラス板の内側に汚れがある
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LED 化して明るくなったので汚れも照らされて気になりました。
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フロントパネルを分解して空拭きクリーニングして綺麗になりました。
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同調点ズレがある
再調整
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電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように良好でした。
VP |
標準値 |
実測値 |
[電源基板] 2pin |
+13V |
+12.5V |
[電源基板] 5pin |
-13V |
-12.4V |
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FM/AM 受信部の調整
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調整結果
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FM 受信
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周波数ダイヤルとのトラッキングズレは、再調整で誤差は ±0.1MHz 以内に収まり、感度も向上しました。
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同調点ズレがあり、T メータのセンタと歪最小位置が合わなくなっていたのが直りました。
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ステレオセパレーションは再調整で向上しました。
その他の性能も以下のように良好になりました。
項目 |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
stereo |
50 |
50 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
mono |
0.15 |
% |
stereo |
0.15 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
stereo |
-74 |
-72 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
mono |
0 |
+0.19 |
dB |
REC LEVEL CHECK 信号 |
mono |
375.0 |
Hz |
-6.7 |
dB |
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AM 受信
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周波数ダイヤルとのトラッキングズレが大きかったです。
OSC トラッキングで直りました。
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感度低下がありましたが、再調整で復活しました。
使ってみました
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今回の修理&再調整の感想
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[トランジスタ全数交換] [電解コンデンサ全数交換] とオーバーホール同等になりました。
IC 故障が無かったのが幸いでした。
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これに修理依頼者の要求で [照明 LED 化] [F 端子増設] [RCA 端子全数交換] とオーバーホールを超えることになりました。
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本機と
TX-8900 (2号機)
でいずれもトランジスタがことごとく劣化していました。
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半世紀物のチューナでは [電解コンデンサ全数交換] より [トランジスタ全数交換] を優先すべきとわかりました。
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傾向として 2SA タイプのトランジスタ劣化が顕著でした。
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新しい試みとしてトランジスタと IC の足にマイグレーション防止ワニスコーティングを実施しました。
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作業に長時間を要しましたが、すごく良い性能と音にできて良かったです。
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デザイン
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ドッシリとして重厚な安定感があり、アンプ並みの大きさと重さです。
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フロントパネルはアルミ材で厚み 5mm もあります。
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ダイヤルスケールの透明板はガラスです。
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ダイヤルスケールの下側に飾りサッシを入れてデザインにアクセントを付けています。
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チューニングノブは無垢アルミで、適度な重みがありスムーズに回転します。
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各種ツマミ、スイッチ、レバーの動きは高級感ある操作感です。
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性能・音質
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FM 受信性能は優秀です。
動作に確実性があり、安心して使えます。
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FM の音は歪のない解像度の高い、クリアというか、かなりの高音質です。
ずっと聴き続けていたいような。
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AM 受信性能は良く、音質も一般のチューナよりはイイです。