SONY ST-636 (2号機) が到着
2022年8月5日、神奈川県厚木市の S さんから SONY ST-636 の修理依頼品が到着しました。
巨大ディスプレイ
が特徴的なチューナです。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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ヤフオクで落札した SONY ST-636 を出品者から直送します。
詳細不明ですが修理お願いします。
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外観
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製造シリアル番号は [202871] で、電源コードの製造マーキングより [1979年製造品] とわかりました。
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軽いスレ等はありますが、かなり綺麗な逸品です。
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フロントパネルは綺麗ですが、大きな透明アクリルパネルの接着が外れているようで、下のほうが奥に沈んでいます。
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天板は綺麗です。
リアパネル、底板に軽いサビはありますが、綺麗なほうです。
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電源 ON してチェック
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電源は入り、[巨大ディスプレイ] [周波数表示ディスプレイ] いずれも輝度は良好です。
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電源 ON 直後は全く何の操作もできませんでした。
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不思議なことに、ON したままにしておいたら徐々に操作できるようになりました。
この状態での状況は以下です。
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FM は大きく感度低下しています。
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MUTING OFF にしないと音が出ません。
[TUNED] [STEREO] ランプが点灯しません。
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76〜86MHz ではなんとか受信できますが、これ以上の周波数は受信できません。
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AM は問題なく受信できます。
特に問題なさそうです。
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徐々に操作できるようになったのは、おそらく内蔵ニッカド電池の不良と思います。
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内蔵ニッカド電池は不良ながらも充電回路で徐々に電圧が上がるのに時間がかかるからと思います。
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プリセットはできましたが、記憶が20分程度しか保持されません。
やはり、内蔵ニッカド電池不良と思います。
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カバーを開けてチェック
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内蔵ニッカド電池は不良になって液漏れして周囲の部品や基板パターンが腐食していました。
酷い状態です。
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重症
ですが、腐食範囲は限定的なので、
かなり頑張れば
補修はできそうです。
これ以外は目視で問題無さそうです。
リペア
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部品&基板が腐食している
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まずは不良になってボコボコになっているニッカド電池を取り外しました。
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これ以上被害が広がらないように
エレクロトロニッククリーナ
で基板の腐食部分を清掃しました。
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この腐食部分は FM/AM 切換回路に相当します。
トランジスタ×2個の足が腐食しているので交換しました。
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この回路からの信号を受信するトランジスタ×4本も念のため交換しました。
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腐食して弱くなったパターン部分を電線で補修しました。
腐食部分は信頼性がないので。
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限定的な腐食と言っても、これくらいの補修ジャンバー線を飛ばす必要があります。
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電線には極細耐熱ジュフロン線を使いました。
ものすごく時間がかかりました。
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動くようにはなったのですが、FM/AM 切換が不調です。
FM は問題ないですが、AM にうまく切り換わりません。
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この補修は失敗です!!!
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リベンジだ!!!
部品&基板が腐食している
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失敗の原因を考察
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腐食している部分にちょうど [FM/AM 切換回路] が乗っています。
これがうまく動作していない ・・・ 辻褄が合います。
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ニッカド電池液が基板に染み込んで、基板の絶縁性が悪くなっているのだろう。
おそらく、絶縁性が数 kΩ に劣化。
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解決するには [FM/AM 切換回路] を別基板にして外付けするしかないです。
超面倒です。
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下の左の回路はオリジナルの [FM/AM 切換回路] を含みます。
[Q505] [Q506] で FM/AM を切り換えています。
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[Q505] [Q506] で構成する部分がそっくり腐食部分に相当します。
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下の右の回路は、[Q505] [Q506] で構成する部分を別基板にするために設計したものです。
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[黄] [白] などの色マークは別基板をモジュール化した時のリード線の色です。
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下は製作する別基板のアートワークです。
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万能基板を使うのですが、あらかじめ CAD でアートワーク設計しておいたほうが製作誤りを防げます。
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下の左の写真は組み上がった別基板です。
16×36mm のミニ基板です。
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下の右の写真のように、別基板をモジュール化しました。
モジュール化するとリード線の色だけが頼りになるのです。
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リード線には高級な耐熱性・高周波特性に優れた AWG24 電線を使いました。
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モジュールを組み込む前に、ST-636 の基板をパターンカットして腐食部分を完全に切り離しました。
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下の写真のようにモジュールを ST-636 に組み込み ・・・
今度は大成功です!!!
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FM/AM がバッチリ切り換わります。
今回はホントに疲れました。
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バッテリ液漏れによる故障修理は苦労するので、今後は修理不能と言ったほうが楽かも。
今回は特別です。
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最後に、ビニールコーティング剤で腐食部分をコーティングしました。
これで腐食劣化に対する対策は万全です。
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内蔵ニッカド電池×2個が不良
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ST-636 (1号機)
に記載の方法で [ニッカド充電池]→[CR2032] に置き換えました。
CR2032 は液漏れしにくいです。
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[CR2032] は一次電池なので、いつか交換が必要ですが、10年以上先と予想します。
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下は外付けした [CR2032] の様子です。
ホルダを使ったので交換可能です。
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万が一液漏れしても被害が少ない場所に設置しました。
ここなら液漏れしても基板には垂れません。
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更にホルダ全体をチャック袋で覆ったので液漏れ対策は完璧です。
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この対策で [徐々に操作できるようになる] 不具合も直りました。
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86MHz 以上の周波数が受信できない
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原因は OSC トラッキングが大幅にズレて 76〜90MHz の VT 電圧が 5〜31V になっていたためです。
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規定の VT 電圧変化範囲は 3〜21V です。
OSC トラッキング再調整で直りました。
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同時に感度も大幅回復しました。
同じ VT 電圧で RF 同調も行うので当然です。
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[TUNED] ランプが点灯しない
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[STEREO] ランプが点灯しない
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原因は MPX の VCO ズレです。
再調整で直りました。
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大きな透明アクリルパネルの接着が外れている
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今回の部品交換まとめ
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交換した部品のリストは以下です。
種別 |
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
バッテリ |
BT501 |
Ni-Cd 二次電池 |
1.2V/150mAh |
Li-ion 一次電池 |
CR2032 (3V) |
ホルダ化して交換 |
BT502 |
Ni-Cd 二次電池 |
1.2V/150mAh |
ホルダ |
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CR2032 バッテリホルダ |
TR |
Q505 |
2SC1815 |
2SC1815 |
腐食のため交換 別基板にして置換 |
Q506 |
2SC1364 |
2SC1815 |
R |
R502 |
1kΩ 1/4W |
1kΩ 1/6W |
R503 |
2.2kΩ 1/4W |
2.2kΩ 1/6W |
R504 |
33kΩ 1/4W |
33kΩ 1/6W |
R505 |
12kΩ 1/4W |
10kΩ 1/6W |
R547 |
10kΩ 1/4W |
10kΩ 1/6W |
基板 |
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- |
16×36mm 万能ミニ基板 |
TR |
Q780 |
2SA1015 |
2SA1015 |
予防交換 |
Q781 |
2SA1015 |
2SA1015 |
Q782 |
2SC1815 |
2SC1815 |
Q783 |
2SC1815 |
2SC1815 |
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交換前に基板に実装されていた部品です。
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失敗した対策で部品交換した [FM/AM 切換回路] のトランジスタと抵抗はまだ ST-636 に乗っています。
パターンカットして電気的に切り離したので悪さはしません。
再調整
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電圧チェック (VP)
VP |
表示値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
Q807-E |
+15V |
+15.7V |
〇 |
チューナ, AF |
Q808-E |
+8V |
+8.14V |
〇 |
PLL |
Q805-E |
+30V |
+31.2V |
〇 |
VT 電源 |
Q801-E |
-9V |
-9.40V |
〇 |
FL 表示 |
Q804-E |
+39V |
+39.8V |
〇 |
Q806-E |
+19V |
+19.5V |
〇 |
Q809-E |
+5.8V |
+6.00V |
〇 |
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調整結果
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FM/AM とも
ST-636 (1号機)
に記載の手順で調整しました。
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FM/AM とも大幅に調整ズレして感度低下していましたが、再調整で大きく感度アップしました。
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FM ステレオ時の高調波歪率は 0.18% (1kHz) でした。
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ステレオセパレーションは優秀な値に調整できました。
項目 |
L |
R |
単位
|
ステレオセパレーション (1kHz) |
67 |
62 |
dB |
パイロット信号キャリアリーク |
-72 |
-68 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 (MONO) |
0 |
-0.21 |
dB |
使ってみました
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デザイン
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巨大ディスプレイ
が素晴らしいです。
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FLUORESCAN MEMORY DISPLAY
です。
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ST-636 はシステムコンポの1つですが、マトモなデザインです。
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フロントパネルはアルミ材のヘアライン仕上げで良好です。
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プリセットボタンは FM 5局/AM 5局と少ないですが ・・・
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FM/AM バンド切換操作することなく、ダイレクトにプリセットコールできて使いやすいです。
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プリセットされた周波数は昇順に自動ソート
されます。
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同調ノブを少し回すと低速、大きく回すと高速で同調周波数が変化します。
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同調操作で周波数変化に応じて [カリ・カリ・カリ] という疑似音が出る仕掛けになっています。
凝ってますね〜
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同調単位は FM で 0.1MHz step、AM で 1kHz step です。
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AM 周波数が細かく設定できるので、マニア感涙ものです。
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周波数ステップが細か過ぎるので、なかなか目的の周波数に到達しない面倒さはありますが ・・・
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受信性能&音質
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十分な感度と妨害電波排除能力があります。
音はクォードラチュア検波特有のソフトな音質です。
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巨大ディスプレイ搭載の希少品種ということで
コレクション向き
です。
博物館的チューナと言えます。