SONY ST-J75 (3号機) が到着
2023年3月26日、東京都多摩市の F さんより
SONY ST-J75
の修理依頼品が到着しました。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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2023年3月22日にヤフオクで落札しましたが、出品者コメントの通り [通電OK / 受信せず] という状態でした。
修理お願いします。
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ヤフオク出品者のコメントは以下
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我が家でコレクションとして保管していました。
個人の主観では、ソニーの 333ES シリーズより高音質で気に入って使ってました。
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今回、断捨離の為、大切に使用していただける方にお譲りしようと思います。
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制御系が故障したみたいで音が出ないです。
たまに出るときは、とても良い音ですが、 そのほかにも不具合があるかもしれませんので 全く保証できませんので【ジャンク扱い】にて、ノークレーム・ノーリターンで宜しくお願い致します。
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整備、修理出来る方や部品取りにご活用下さいませ。
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ジャンク品です。
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ヤフオク出品者のコメントは矛盾しています
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[大切に使用していただける方にお譲りしたい] と言ってるのに [部品取りにご活用してください] とはどういうこと???
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[部品取り] したら動作しなくなるので [大切に使えない] と思うのですが???
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外観
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製造シリアル番号は [208116] で、電源コードの製造マーキングより [1980年製造品] とわかりました。
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フロントパネルに線キズがあり、文字のカスレもあります。
良い状態ではないです。
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フロントパネルにあるボタンには薄いサビが出ています。
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リアパネルに薄いサビがありますが、使用には問題なさそうです。
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天板には汚れ・スレ・キズがありますが、致命的な変形はないです。
底板は綺麗です。
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電源 ON してチェック
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電源は入ったのですが、ほぼ全てのランプが薄く点滅して、動作モードが把握できません。
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この状態でボタン操作してみると、なんとなく反応していますが不安定です。
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この状態なので FM/AM とも受信できません。
これ以上チェックしようがなく、
完全故障
です。
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カバーを開けてチェック
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基板は綺麗で、目視では特に問題なさそうに見えます。
ただし、各 IC の足が黒ずんでいます。
リペア
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ほぼ全てのランプが薄く点滅して、動作モードが把握できない
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電源電圧が正常かチェック
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以下のように全て正常で、この要因ではありませんでした。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
Q601-E |
+15V |
+15.0V |
〇 |
Q604-E |
-5V |
-5.16 |
〇 |
Q605-E |
+5V |
+5.09V |
〇 |
Q606-E |
+5V |
+5.07V |
〇 |
Q607-E |
-30V |
-31,3V |
〇 |
Q608-E |
+30V |
+31,2V |
〇 |
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FUSE 抵抗が正常かチェック
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安全面で FUSE 抵抗が使われているのですが、経年劣化しやすい欠点があります。
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チェックの結果、以下のように正常範囲でした。
この要因ではありませんでした。
セクション |
部品番号 |
抵抗値 (Ω) |
実測値 (Ω) |
判定 |
FE |
R104 |
39 |
36.0 |
〇 |
DISCRI |
R128 |
120 |
121 |
〇 |
R129 |
10 |
10.2 |
〇 |
MPX |
R208 |
100 |
99.4 |
〇 |
R209 |
100 |
99.7 |
〇 |
R217 |
120 |
120 |
〇 |
MUT |
R229 |
100 |
101 |
〇 |
AUDIO |
R233 |
100 |
101 |
〇 |
R234 |
39 |
39.4 |
〇 |
AM |
R317 |
100 |
100 |
〇 |
R318 |
100 |
100 |
〇 |
PS |
R607 |
10 |
10.2 |
〇 |
R610 |
10 |
10.2 |
〇 |
R613 |
10 |
10.2 |
〇 |
R617 |
10 |
10.5 |
〇 |
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タンタルコンデンサで内部短絡が発生していないかチェック
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半世紀前はタンタルコンデンサは特性の良いコンデンサと信じられており、高価なでした。
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ところが最近になって内部短絡しやすい欠点が発覚し、現在では使用されません。
使用禁止しているメーカも多いです。
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チェックの結果、内部短絡はありませんでした。
この要因ではありませんでした。
セクション |
部品番号 |
定数 |
判定 |
MPX |
C208 |
0.33uF/35V |
〇 |
C209 |
3.3uF/35V |
〇 |
C210 |
3.3uF/35V |
〇 |
C211 |
0.47uF/35V |
〇 |
C218 |
0.33uF/35V |
〇 |
PLL |
C401 |
0.1uF/35V |
〇 |
C402 |
0.68uF/35V |
〇 |
MUT |
C707 |
6.8uF/20V |
〇 |
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足が黒くなっている IC の足を洗浄してみました。
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黒くなっているのはマイグレーションと呼ばれる金属カビのようなもので、IC のピン間を短絡して誤動作させます。
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IC を取り外さないで、基板上からエレクトロニッククリーナと歯ブラシを使って洗浄しました。
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IC を1個ずつ順に洗浄していき、1個洗浄するごとに電源 ON して動作が変わったか確認しながら行いました。
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IC504 (TMS1024NLL) を洗浄したところで、
動作が正常になりました!
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右の写真の中央に写っている IC です。
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原因は IC504 (TMS1024NLL) のマイグレーションによるピン間短絡でした。
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この IC は拡張 IO ポートで、各種表示と操作ボタンの取り込みに使っています。
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[表示が薄く点滅] [操作ボタンが反応しにくい] 現象と辻褄が合います。
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マイグレーションが原因で間違いないです。
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IC501 交換がベストですが、この IC は既に製造しておらず、入手困難です。
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やっと操作系は直りました!
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IC504 の洗浄は基板の表面からしかやっていない訳で、足の裏側は洗浄できていないです。
再発しないことを祈ります。
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操作できるようになったので、あらためて動作チェックすると以下の状況が確認できました。
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FM は受信できようになり、[STEREO] ランプも点灯するようになりましたが、まだ以下の不具合があります。、
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感度が大きく低下している。
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受信音に時々バリバリという雑音が入る。
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AM は全く受信できない。
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FM の感度が大きく低下している
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FM フロントエンドの調整ズレが原因でした。
FM フロントエンドを仮調整して感度が大きく上がりました。
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FM 受信音に時々バリバリという雑音が入る
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一番怪しいと思われた [LPF201] を取り外して内蔵チタコンをチェックしました。
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[LPF201] はアンチバーディフィルタで、検波〜MPX の間に入っています。
内蔵チタコンは綺麗で問題ありませんでした。
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[LPF201] を取り外した状態では無音になりますが、この無音状態で時々バリバリ雑音が出ます。
[LPF201] は完全に無罪です
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LPF201〜MPX の間には [4066B] というアナログスイッチ IC が入っています。
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右の写真のように、[4066B] を IC ソケット化してから交換してみました。
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見事! バリバリ雑音は解消しました。
この IC の故障が原因でした。
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AM 受信できない
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AM は [LA1245] という IC で受信回路を構成します。
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VT 電圧を測定してみると、どの周波数でも +30V くらいです。
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これは OSC 発振していないことを意味します。
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右の写真のように、[LA1245] を IC ソケット化してから交換してみました。
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周波数と共に VT 電圧が変化するようになりました。
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[LA1245] が故障していたのです。
交換は正解です。
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しかし、この対策でも AM 受信できませんでした。
他にも要因があるようです。
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こうなるとオシロスコープの出番です。
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SSG より AM アンテナ端子に電波を注入して [LA1245] の各 pin の波形を追いました。
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[IF] 出力 (10pin) までは正常で、[DET] 入力 (11pin) では波形が消えています。
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[IF]→[IFT303]→[DET] と信号が流れるので、[IFT303] が怪しいです。
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左の写真の中央にある黒いコアの部品が [IFT303] です。
右の写真は基板から取り外して裏側を見たものです。
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裏側で竹輪のような部品がチタコンで、マイグレーションで真っ黒になっています。
故障しています。
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チタコンを外して抵抗計で測ると100Ω程度でした。
コンデンサですから無限大が正しいです。
抵抗に変身したようです。
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もうこのチタコンは使えないので、チタコンを外した状態で [IFT303] を基板に戻しました。
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チタコンの代わりにセラミックコンデンサを基板裏側に取り付けました。
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チタコンは 180pF ですが、こんな中途半端なコンデンサはないので 100pF×2個 をパラにして 200pF としました。
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180pF → 200pF と容量が変わったのですが、10% くらいなのでコアの調整でなんとかなります。
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コンデンサ交換後、AM 受信チェックしました。
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見事! 直りました。
AM できるようになりました。
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ここまでの修理でヤフオク出品者のコメントはウソっぽいと思いました
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かつて (最近まで) 正常動作していたなら、こんなに同時に故障していることはあり得ないです。
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修理依頼者がこの ST-J75 を購入したのは不運でしたが、私のところに入院したのは幸運でした。
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予防交換と音質改善交換のためのコンデンサ交換
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製造後43年経過 (2023年現在) しており、タンタルコンデンサはもういつ内部短絡故障してもおかしくないです。
全数交換します。
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オーディオ信号が通過する電解コンデンサを全数オーディオクラス電解コンデンサに交換して、音質改善を目指します。
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交換リストは以下です。
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積層セラミックコンデンサはタンタルコンデンサより高周波特性が良いです。
無極性です。
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[MUSE/ES] はオーディオクラス電解コンデンサです。
無極性です。
セクション |
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
MPX |
C208 |
0.33uF/35V (タンタル) |
0.33uF/50V (積層セラミック) |
予防交換 |
C209 |
3.3uF/35V (タンタル) |
3.3uF/50V (MUSE/ES) |
C210 |
3.3uF/35V (タンタル) |
3.3uF/50V (MUSE/ES) |
C211 |
0.47uF/35V (タンタル) |
0.47uF/50V (積層セラミック) |
C217 |
3.3uF/25V (電解) |
3.3uF/50V (MUSE/ES) |
音質改善交換 |
C218 |
0.33uF/35V (タンタル) |
0.33uF/50V (積層セラミック) |
予防交換 |
AUDIO |
C230 |
4.7uF/16V (電解) |
4.7uF/50V (MUSE/ES) |
音質改善交換 |
C231 |
4.7uF/16V (電解) |
4.7uF/50V (MUSE/ES) |
PLL |
C401 |
0.1uF/35V (タンタル) |
0.1uF/50V (積層セラミック) |
予防交換 |
C402 |
0.68uF/35V (タンタル) |
0.68uF/50V (積層セラミック) |
MUT |
C707 |
6.8uF/20V (タンタル) |
10uF/25V (MUSE/ES) |
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左の写真は [MPX] セクションです。
緑色と小さい青色が交換済みのもの
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右の写真は [AUDIO] [MUT] セクションです。
緑色が交換済みのもの
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左の写真は [PLL] セクションです。
小さい青色が交換済みのもの
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右の写真は部品交換前に基板に実装されていた部品です。
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フロントパネルにあるボタンに薄いサビが出ている
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できる範囲でサビを削り落としました。
新品同様にはなりませんが、かなりマシになりました。
再調整
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FM/AM 受信部の調整
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調整結果
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FM は [フロントエンド] が大きく調整ズレしていました。
その他にも調整ズレがありました。
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FM は再調整にて、以下の良好な特性になりました。
項目 |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
stereo |
60 |
55 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
mono |
0.080 |
% |
stereo |
0.081 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
stereo |
-66 |
-67 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
mono |
0 |
0 |
dB |
CAL TONE |
mono |
375.0 |
Hz |
-6.0 |
dB |
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AM は修理後、[フロントエンド] [IF] を再調整して良好になりました。
使ってみました
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素晴らしいデザイン
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フロントパネルにヘアラインアルミ材を使用しており、高質感です。
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放送局のプリセット数が FM/AM 合わせて8局分あります。
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不揮発性メモリを使っており、バッテリなどのバックアップ不要です。
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AM はリアパネルに取り付けられたバーアンテナで受信します。
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MUTING OFF にすると AM ノイズフィルタが ON になります。
高域は落ちますが、雑音が多い時は有効な機能です。
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感度と音質
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感度が良く、ローカル放送を良音で聴けます。
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FM の音質は、音に解像度があり、高域がクリアで、素晴らしいです。
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AM の音質もなかなか良好です。