SONY ST-S333ESA (5号機) が到着
2022年6月8日、大阪府交野市の F さんより
SONY ST-S333ESA
の修理依頼品が送られてきました。
到着した状態のまま、状態チェック
-
依頼者のコメント
-
3か月ほど前から電波 (FM/AM) を受信できなくなりました。
-
電源は入ります。
電波のインジケータは動きません。
同じ環境で他のチューナは受信できます。
-
外観
-
フロントパネルの天板への折り返し部分に薄いサビが出ていますが、全体的には綺麗な逸品です。
-
天板にプチプチとした微小な塗装ハゲがありますが、これ以外に問題はありません。
-
サイドウッドにキズやハガレはなく、非常に綺麗です。
リアパネルの端子類は綺麗です。
-
製造シリアル番号は [200457] で、電源コードの製造マーキングより1991年製と判明しました。
-
電源 ON にて確認
-
電源は問題なく入り、ディスプレイの輝度は十分です。
各ボタンやノブはそれなりに反応します。
-
FM は周波数表示は変わるのですが全く受信できません。
-
AM は受信できるのですが変です。
1,000kHz までの放送局はちゃんと受信できます。
-
1,000kHz 超えたあたりからどの周波数に合わせても同じ AM 放送が聴こえます。
ある意味、オモシロイ。
リペア
-
FM 全く受信不可 / AM 1,000kHz 以上の放送が受信不可
-
JW20 で測定する VT 電圧が常に 0V でした。
これでは FM が受信できません。
-
AM がかろうじて受信できるのは VT 電圧が別ルートで供給されるからです。
-
原因は FM OSC 用バリキャップダイオード [KV1320] が故障して短絡状態になったからです。
-
この短絡が AM 受信にも影響を与え、AM の VT 電圧が上がり切れなかったのです。
-
[KV1320] を交換して FM/AM とも正常受信できるようになりました。
-
FM フロントの RF 段のトリマコンデンサが故障
-
再調整中に気付きました。
-
トリマコンデンサを回すとガクンと容量低下します。
これはトリマコンデンサの故障 (劣化) です。
-
該当トリマコンデンサ×3個を一斉交換しました。
-
FUSE 抵抗 R292 が故障
-
再調整中に気付きました。
-
正常値は 100Ω ですが、これが 155Ω に経年変化していました。
これは FUSE 抵抗の故障 (劣化) です。
-
R292 を新品の 100Ω に交換しました。
-
プリセットメモリバックアップ用の電気二重層コンデンサを予防交換
-
本機は1991年製で
31年物ビンテージ
(2022年時点) です。
-
おそらく、プリセットメモリバックアップ用の電気二重層コンデンサは経年変化して容量がかなり減っていると思います。
-
これを新品の 1F/5.5V に交換しました。
-
交換した部品の記録
-
交換部品リストは以下です。
写真は基板に元付いていた故障した部品です。
部品番号 |
オリジナル |
交換後 |
用途 |
備考 |
C605 |
0.1F/5.5V |
1F/5.5V |
プリセットメモリ バックアップ |
予防交換 電気二重層コンデンサ |
CT101 CT102 CT103 |
8.2PF |
10PF |
FM RF 用 トリマコンデンサ |
故障により交換 (3個) |
D104 |
KV1320 |
KV1320 |
FM OSC 用 バリキャップダイオード |
故障により交換 |
R292 |
100Ω |
100Ω |
DET 電源ライン |
故障により交換 |
-
C605 の電気二重層コンデンサを 0.1F→1F へと10倍の容量に交換しましたが ・・・
-
取扱説明書には、(プリセットメモリは) [電源を切った状態でも、約1ヶ月間保存されます] と記載されています。
-
今回の交換で容量が10倍になったので、理論上は10ヶ月バックアップ保持できることになります。
-
でもこれは机上の計算で、実際には数ヶ月でしょう。
-
ハンダクラック対策
-
ST-S333ES シリーズでは銅製のアースバーが敷かれています。
-
これはこれで素晴らしいのですが、経年変化でアースバーでハンダクラックが発生しやすいのです。
-
アースバーに補修ハンダを行いました。
-
リアパネルの端子類
-
どうしても端子のリードと基板の間で機械的なタワミを原因とするハンダクラックが発生しやすいのです。
-
端子のリードと基板のハンダ付け部分に補修ハンダを行いました。
再調整
-
電源電圧チェック
-
特に問題なく良好です。
VP |
表示電圧 |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
備考 |
JW88 |
+30V |
+30.9V |
+30.2V |
〇 |
PLL |
JW89 |
+15V |
+16.3V |
+14.9V |
〇 |
AUDIO |
JW145 |
-17V |
-17.5V |
-17.8V |
〇 |
FL |
JW213 |
+13V |
+13.6V |
+13.5V |
〇 |
DIGITAL |
JW220 |
+5V |
+5.6V |
+5.60V |
〇 |
DIGITAL |
-
調整結果
-
ST-S333ESA (1号機)
に記載の調整手順にて再調整しました。
-
やはり
31年物ビンテージ
(2022年時点) ですから、あちこち経年変化のズレがありました。
-
再調整後は以下のように非常に良好な数値です。
-
ステレオ時の高調波歪率は 0.015% (WIDE 1kHz) でした。
項目 |
IF BAND |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
57 |
61 |
dB |
NARROW |
46 |
40 |
dB |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
-74 |
-76 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 (mono) |
0 |
0 |
dB |
CAL TONE 信号 |
419.9 |
Hz |
-6.81 |
-6.86 |
dB |
使ってみました
-
全体的にゴールド基調のデザイン
-
フロントパネルはアルミ材で、ヘアライン仕上げです。
-
サイドウッドは鏡面仕上げでラウンド加工されています。
-
FM 受信
-
感度も S/N も一級品です。
微弱電波もしっかり捉えます。
-
解像度がある素晴らしい音。
現代の安物チューナーとは全く異次元の音です。
-
AM 受信
-
感度は良いです。
ループアンテナでしっかり入感します。