SONY ST-S333ESG (8号機) が到着
2022年7月21日、神奈川県藤沢市の H さんより
SONY ST-S333ESG
の修理依頼品が届きました。
写真は修理完了後です。
S メータがちゃんと振れ、音が出るようになりました。
到着した状態のまま、状態チェック
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依頼者のコメント
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SONY ST-S333ESG を新品で購入して長年使用しています。
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数年前から受信感度の低下が感じられ、3ヶ月前に音が出なくなりました。
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経年劣化で交換したほうがよいコンデンサの交換と、ハンダ付けの老化がありましたら補修をお願いします。
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気に入っており今後も使用していきたいので、修理をお願いします。
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外観
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製造シリアル番号は [209860] です。
電源コードの製造マーキングより1991年製とわかりました。
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ほぼキズなしの非常に綺麗な逸品です。
リアパネルの端子類に錆はなく、ピカピカです。
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天板のリア側に少しサビが出始めていますが、今のところ大丈夫です。
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純正の AM ループアンテナの添付がありました。
これで AM はキチンと調整できます。
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電源 ON にてチェック
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電源は問題なく入り、各ボタンやノブの操作は正常です。
ディスプレイの輝度は新品同様です。
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FM 受信
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感度がかなり悪化しており、S メータは少ししか振れません。
周波数ズレは無さそうです。
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[STEREO] 表示が点灯しません。
肝心の音が全く出ません。
重症かもしれないという予感が ・・・
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[REC CAL] テスト音は出ます。
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AM 受信
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問題なく受信でき、S メータも振れ、音も出ます。
感度も良好です。
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カバーを開けてチェック
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内部に結構ゴミが溜まっています。
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[C605] 0.1F/5.5V の電気二重層コンデンサには液漏れ等はありません。
でも使用年数を考えると無条件に交換したほうがよさそうです。
リペア
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FUSE 抵抗のチェックと交換
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このチェックは ST-S333ES シリーズでは定例作業ですが、これで [音が出ない] 原因が判明しました。
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[R292] が断線し、FM 検波出力が出ないので、これ以降の回路が動作しないのです。
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[REC CAL 音が出る] [AM 受信では音が出る] との辻褄も論理的に合います。
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[R292] 交換で FM 受信でも音がでるようになりました!
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FUSE 抵抗のチェック結果は以下の表です。
劣化していた抵抗×6本を交換しました。
回路 |
部品番号 |
標準値 (Ω) |
実測値 (Ω) |
判定 |
対策 |
備考 |
FM FRONT END |
R119 |
100 |
98.8 |
〇 |
- |
|
WOIS |
R203 |
10 |
10.1 |
〇 |
- |
|
R207 |
10 |
4.9 |
△ |
10Ωに交換 |
大丈夫と思うが念のため |
R211 |
10 |
10.3 |
〇 |
- |
|
R227 |
10 |
10.2 |
〇 |
- |
|
IF |
R259 |
100 |
99.1 |
〇 |
- |
|
DET |
R274 |
10 |
10.2 |
〇 |
- |
|
R279 |
100 |
83.5 |
△ |
100Ωに交換 |
大丈夫と思うが念のため |
R292 |
100 |
断線 |
× |
100Ωに交換 |
これが音が出ない原因 |
MPX |
R301 |
10 |
10.2 |
〇 |
- |
|
R327 |
47 |
425 |
× |
47Ωに交換 |
|
AM |
R403 |
220 |
219 |
〇 |
- |
|
R410 |
150 |
148 |
〇 |
- |
|
PLL |
R511 |
220 |
217 |
〇 |
- |
|
R516 |
180 |
179 |
〇 |
- |
|
CONTROL |
R626 |
47 |
46.8 |
〇 |
- |
|
POWER SUPPLY |
R910 |
22 |
53.5 |
× |
22Ωに交換 |
|
R921 |
220 |
704 |
× |
220Ωに交換 |
|
R931 |
180 |
186 |
〇 |
- |
|
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電気二重層コンデンサ交換
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プリセットメモリのバックアップ用電気二重層コンデンサを交換しました。
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製造から31年経過 (2022年時点) しているので、交換時期です。
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[C605] 0.1F/5.5V → 1F/5.5V と交換しました。
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右の写真は新しく実装した縦型の電気二重層コンデンサです。
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サイズが大きいので縦型でないと基板に乗らないです。
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0.1F → 1F と10倍の容量になったので、10倍の10ヶ月メモリ保持できるかも?
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FM の感度がかなり悪い
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FM フロントエンドの RF 部のトリマコンデンサが劣化したのが原因です。
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トリマコンデンサはハトメ構造なので、経年変化でハトメ部に錆が乗ります。
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RF 段トリマコンデンサは3個ありますが、全数交換しました。
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右の写真は新しく実装したトリマコンデンサです。
セラミック型です。
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取付はホット側を同調に、コールド側を GND にします。
写真の手前がコールド側です。
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コンデンサ交換 ・・・ 修理依頼者からのリクエスト
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交換の方針
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電源部の電解コンデンサは全数交換する。
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FM オーディオ信号が通過する電解コンデンサは全数交換する。
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プリセットメモリバックアップ用の電気二重層コンデンサは交換する。
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使用する電解コンデンサはオーディオクラス品とする。
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部品交換リスト
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一部のコンデンサで、交換後のコンデンサの耐圧が下がっていますが、何ら問題ありません。
元のコンデンサの耐圧がオーバースペックなのです。
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MPX のコンデンサは精度が良く周波数特性も良いフィルムコンデンサに全数交換しました。
お高いコンデンサです。
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交換対象数が多くて大変でした。
用途 |
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
電源 |
C905 |
電解コンデンサ |
2200uF/63V |
オーディオ用 電解コンデンサ |
2200uF/50V (KW) |
C906 |
100uF/25V |
100uF/25V (FG) |
C907 |
1000uF/63V |
1000uF/50V (KW) |
C915 |
470uF/35V |
470uF/25V (FG) |
C916 |
47uF/10V |
47uF/25V (FG) |
C917 |
100uF/16V |
100uF/25V (FG) |
C922 |
330uF/50V |
330uF/50V (FG) |
C923 |
47uF/50V |
47uF/50V (FG) |
C924 |
47uF/50V |
47uF/50V (FG) |
C932 |
330uF/50V |
330uF/50V (FG) |
C933 |
47uF/50V |
47uF/50V (FG) |
C934 |
47uF/50V |
47uF/50V (FG) |
オーディオ |
C324 |
電解コンデンサ |
22uF/63V |
オーディオ用 電解コンデンサ |
22uF/50V (FG) |
C325 |
22uF/63V |
22uF/50V (FG) |
検波 |
C330 |
電解コンデンサ |
100uF/63V |
オーディオ用 電解コンデンサ |
100uF/50V (FG) |
MPX |
C301 |
電解コンデンサ |
0.47uF/50V |
フィルムコンデンサ |
0.47uF/100V |
C302 |
1uF/50V |
1uF/100V |
C304 |
1uF/50V |
1uF/100V |
C305 |
1uF/50V |
1uF/100V |
C307 |
0.47uF/50V |
0.47uF/100V |
C310 |
0.33uF/50V |
0.33uF/100V |
C311 |
0.1uF/50V |
0.1uF/100V |
C312 |
0.47uF/50V |
0.47uF/100V |
C331 |
1uF/50V |
1uF/100V |
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交換後の記録写真
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左の写真は電源部です。
金色のコンデンサと右側で黒い2本コンデンサが交換後です。
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コンデンサが斜めに取り付けているのは、実装がヘタだからではありません。
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放熱板やトランジスタの発熱部からできるだけ遠ざけるためです。
ちゃんと理由があるのです。
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右の写真は MPX 部です。
四角い黄色の部品がフィルムコンデンサです。
手前の金色のコンデンサは検波出力用です。
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左の写真はオーディオ出力部です。
金色のコンデンサが交換後です。
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右の写真は基板に実装されていた部品です。
交換した [電気二重層コンデンサ] [トリマコンデンサ] [抵抗] を含みます。
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半田クラック対策
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基板内のアースバーで半田付け部分に目視でわかる半田クラックがありました。
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対策として全部のアースバーを補修半田しました。
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内部に結構ゴミが溜まっている
再調整
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電源電圧チェック (VP)
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特に問題なく良好です。
VP |
表示電圧 |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
備考 |
JW88 |
+30V |
+30.9V |
+30.7V |
〇 |
PLL |
JW89 |
+15V |
+16.3V |
+15.0V |
〇 |
AUDIO |
JW145 |
-17V |
-17.5V |
-17.7V |
〇 |
FL |
JW213 |
+13V |
+13.6V |
+13.4V |
〇 |
DIGITAL |
JW220 |
+5V |
+5.6V |
+5.74V |
〇 |
DIGITAL |
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調整結果
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ST-S333ESG (1号機)
に記載の調整手順にて再調整しました。
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再調整後は特に問題はなく、極めて良好な数値です。
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ステレオ時の高調波歪率は 0.009% (WIDE 1kHz) でした。
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モノラル時の高調波歪率は 0.008% (WIDE 1kHz) でした。
項目 |
IF BAND |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
66 |
70 |
dB |
NARROW |
52 |
44 |
dB |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
-73 |
-73 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 (mono) |
0 |
-0.02 |
dB |
CAL TONE 信号 (mono) |
398.4 |
Hz |
-5.4 |
-5.4 |
dB |
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AM は添付された純正ループアンテナで調整しました。
良好に受信できました。
使ってみました
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全体的にブラック基調のデザイン
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SONY デザインはやはり格好イイです。
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デザインが良くて性能も良い、持つべき価値があります。
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フロントパネルはアルミ材で、ヘアライン仕上げです。
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サイドウッド付で高級感を醸し出しています。
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FM 受信
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感度も S/N も一級品です。
微弱電波もしっかり捉えます。
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解像度がある素晴らしい音。
現代の安物チューナーとは全く異次元の音です。
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AM 受信
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感度は良いです。
ループアンテナでしっかり入感します。