SONY ST-S333ESG (9号機) が到着
2023年1月9日、岡山県苫田郡の Y さんより
SONY ST-S333ESG
の修理依頼品が届きました。
写真は修理完了後です。
S メータがちゃんと振れ、音が出るようになりました。
到着した状態のまま、状態チェック
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依頼者のコメント
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使用していた ST-S333ESG が FM を全く受信しなくなりました。
AM は 受信します。
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以前は、1日置いたら正常に受信できていました。
原因がよくわかりま せん。
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外観
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製造シリアル番号は [205793] です。
電源コードの製造マーキングより1990年製とわかりました。
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フロントパネルは、左下に何やら汚れ、プチッとしたキズが数点ありますがほぼ綺麗です。
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天板にはこの上に乗せていたであろう機器の足型が四隅にあります。
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リアパネルは非常に綺麗です。
端子類に錆はなく、ピカピカです。
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側板は左右ともキズはなく、とても綺麗です。
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純正の AM ループアンテナの添付はありませんでした。
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電源 ON にてチェック
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電源は問題なく入り、各ボタンやノブの操作はそれなりにできます。
ディスプレイの輝度は新品同様です。
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FM 受信
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周波数表示は出ますが、どこの周波数でも受信できず、局間ノイズしか聴こえません。
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[REC CAL] テスト音は出ます。
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AM 受信
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問題なく受信でき、S メータも振れ、音も出ます。
感度も良好です。
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カバーを開けてチェック
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内部に結構ゴミが溜まっています。
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[C605] 0.1F/5.5V の電気二重層コンデンサには液漏れ等はありません。
でも使用年数を考えると無条件に交換したほうがよさそうです。
リペア
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FUSE 抵抗のチェックと交換
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このチェックで不具合原因がわかることがありますが、問題個所はなく良好でした。
回路 |
部品番号 |
標準値 (Ω) |
実測値 (Ω) |
判定 |
対策 |
備考 |
FM FRONT END |
R119 |
100 |
89.4 |
〇 |
- |
カーボン抵抗が実装されていた |
WOIS |
R203 |
10 |
10.4 |
〇 |
- |
カーボン抵抗が実装されていた |
R207 |
10 |
10.1 |
〇 |
- |
カーボン抵抗が実装されていた |
R211 |
10 |
10.0 |
〇 |
- |
カーボン抵抗が実装されていた |
R227 |
10 |
10.2 |
〇 |
- |
カーボン抵抗が実装されていた |
IF |
R259 |
100 |
99.4 |
〇 |
- |
カーボン抵抗が実装されていた |
DET |
R274 |
10 |
10.4 |
〇 |
- |
|
R279 |
100 |
84.3 |
〇 |
- |
カーボン抵抗が実装されていた |
R292 |
100 |
99.9 |
〇 |
- |
|
MPX |
R301 |
10 |
10.3 |
〇 |
- |
カーボン抵抗が実装されていた |
R327 |
47 |
46.8 |
〇 |
- |
カーボン抵抗が実装されていた |
AM |
R403 |
220 |
217 |
〇 |
- |
カーボン抵抗が実装されていた |
R410 |
150 |
147 |
〇 |
- |
カーボン抵抗が実装されていた |
PLL |
R511 |
220 |
218 |
〇 |
- |
カーボン抵抗が実装されていた |
R516 |
180 |
179 |
〇 |
- |
カーボン抵抗が実装されていた |
CONTROL |
R626 |
47 |
47.0 |
〇 |
- |
カーボン抵抗が実装されていた |
POWER SUPPLY |
R910 |
22 |
22.0 |
〇 |
- |
|
R921 |
220 |
220 |
〇 |
- |
|
R931 |
180 |
179 |
〇 |
- |
|
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FM 受信できない
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FM 受信周波数を変化に応じて VT 電圧も変化するかチェック
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どこの受信周波数でも常に [VT 電圧 = 29.3V] のままでした。
これが受信できない原因です。
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要因は [OSC が発振していない] [OSC モニタ出力が PLL 回路に入力されていない] の可能性を考えました。
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OSC が発振しているかチェック
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オシロスコープで観測すると、OSC は一番高い周波数で発振しており問題ありません。
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PLL 回路へ OSC モニタ出力が入力されているかチェック
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PLL 回路は [IC501 CX7925] で構成しており、[FM OSC]〜[CX7925] は下の左の回路になっています。
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CX7925 - 11pin をオシロスコープで観察すると、OSC モニタ出力が入力されていました。
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でもおかしいのです。
11pin の DC レベルが 9V 以上あるのです。
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OSC モニタ波形が GND レベルに到達しないので、CX7925 が入力を認識できません。
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CX7925 は +5V で駆動されており、この電圧を超えることはあり得ません。
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そうすると、11pin にどこからか DC 電圧が回り込んでいることになります。
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CX7925 - 11pin にどこから DC 電圧が回り込んでいるのだろう?
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CX7925 - 11pin の先には [C504 0.01uF] のコンデンサしかありません。
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まさかと思いつつ、C504 を 0.01uF フィルムコンデンサと交換してみたところ、電圧の回り込みは解消しました。
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下の右の写真は交換後で、赤丸で囲んだ黄色の部品がフィルムコンデンサです。
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そして、
FM 受信できない現象が直りました!!!
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C504 が内部レアショートして数 kΩの抵抗に変身したのです。
これが FM 受信できない真の原因でした。
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FM 受信できるようになったので、あらためて FM の状況をチェックしたところ、以下の現象が確認できました。
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感度が低下しています。
RF トリマコンデンサを調整すると最良点にピッタリ決まらず、何かおかしい。
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オートチューングで放送局周波数の -0.1MHz (80.0MHz の放送が 79.9MHz) で受信します。
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FM の感度が低下している
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FM フロントエンドの RF 部のトリマコンデンサが劣化したのが原因です。
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トリマコンデンサはハトメ構造なので、経年変化でハトメ部に錆が乗ります。
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RF 段トリマコンデンサは3個ありますが、全数交換しました。
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右の写真は新しく実装したトリマコンデンサです。
セラミック型です。
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取付はホット側を同調に、コールド側を GND にします。
写真の手前がコールド側です。
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オートチューングで放送局周波数の -0.1MHz で受信する。
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同調点電圧 (R256の両端) を測定すると 700mV 以上 (正常値は 0±20mV) となっています。
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同調点ズレしています。
[IFT251] を再調整して直りました。
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修理依頼者コメントの [以前は1日置いたら正常に受信できていました] は、これが原因です。
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電気二重層コンデンサ交換
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プリセットメモリのバックアップ用電気二重層コンデンサを交換しました。
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製造から33年経過 (2023年時点) しているので、交換時期です。
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[C605] 0.1F/5.5V → 1F/5.5V と交換しました。
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右の写真は新しく実装した縦型の電気二重層コンデンサです。
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サイズが大きいので縦型でないと基板に乗らないです。
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0.1F → 1F と10倍の容量になったので、10倍の10ヶ月メモリ保持できるかも?
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ハンダクラック対策
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[基板内のアースバー] [リアパネルの端子のリード部] の半田付け部分に目視でわかるハンダクラックがありました。
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[全部のアースバー] [リアパネルの端子のリード部] を補修ハンダ付けして直りました。
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内部に結構ゴミが溜まっている
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交換前に実装されていた部品の記録
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左から [電気二重層コンデンサ] [トリマコンデンサ 3個] [C504 0.01uF コンデンサ] です。
再調整
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電源電圧チェック (VP)
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特に問題なく良好です。
VP |
表示電圧 |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
備考 |
JW88 |
+30V |
+30.9V |
+30.4V |
〇 |
PLL |
JW89 |
+15V |
+16.3V |
+15.0V |
〇 |
AUDIO |
JW145 |
-17V |
-17.5V |
-17.9V |
〇 |
FL |
JW213 |
+13V |
+13.6V |
+13.5V |
〇 |
DIGITAL |
JW220 |
+5V |
+5.6V |
+5.55V |
〇 |
DIGITAL |
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調整結果
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ST-S333ESG (1号機)
に記載の調整手順にて再調整しました。
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再調整後は特に問題はなく、極めて良好な数値です。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
59 |
62 |
dB |
NARROW |
46 |
50 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.015 |
% |
stereo |
0.02 |
% |
NARROW |
mono |
0.3 |
% |
stereo |
0.3 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-72 |
-73 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
0 |
dB |
CAL TONE 信号 |
WIDE |
mono |
398.4 |
Hz |
-6.1 |
-6.1 |
dB |
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AM は [純正 AM ループアンテナ] の添付がなかったので、IF 部のみの調整としました。
使ってみました
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全体的にブラック基調のデザイン
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SONY デザインはやはり格好イイです。
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デザインが良くて性能も良い、持つべき価値があります。
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フロントパネルはアルミ材で、ヘアライン仕上げです。
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サイドウッド付で高級感を醸し出しています。
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FM 受信
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感度も S/N も一級品です。
微弱電波もしっかり捉えます。
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解像度がある素晴らしい音。
現代の安物チューナーとは全く異次元の音です。
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AM 受信
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感度は良いです。
ループアンテナでしっかり入感します。