SONY ST-SA50ES (4号機) が到着
2022年3月4日、埼玉県和光市の K さんより
SONY ST-SA50ES
の修理依頼品が送られてきました。
予想外のタクトスイッチ×24個の全数交換が必要となり、時間がかかりましたが、無事修理完了しました。
調整後は感度や音が良い逸品になりました。
K さんよりの修理依頼内容
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久しぶりに通電したところ、以下の不具合が発生していました。
修理をお願いします。
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2時間ぐらい通電しないと STEREO 受信ができない
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デジタル信号計が使用できない
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自動チューニングができない
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プリセットができない
状態チェック
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外観
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シリアル番号は [200277] です。
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使用 IC のロット番号より、この ST-SA50ES は1997年製と判明しました。
電源ケーブルの製造マーキングも1997年でした。
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正面から見たフロントパネルは比較的綺麗ですが、天板への折り返し部分にかなりスレがあります。
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天板にかなり汚れがあります。
ヘコミは無いです。
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底板に汚れに見える薄いサビがあります。
これはクリーニングでは取れないです。
ヘコミは無いです。
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底板に本来あるはずのインシュレータが外され、貼るタイプのクッションに置き代わっています。
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同調ノブに黒っぽいポチポチしたスレとキズがあります。
更に異様に硬くて回すのに大きな力が必要です。
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リアパネルの端子類にサビが出ています。
金メッキなのにサビが出るということは、保管時の湿度が高かった証拠です。
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以上より、外観はかなり悪いと言わざるを得ません。
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電源 ON してチェック
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電源は問題なく入りました。
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FL 表示器の輝度は明るく新品同様です。
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押しボタンの多くの動作がおかしいです。
そのボタンの機能以外が動作したりと異常です。
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FM はマニュアル選局はなんとかできますが、オート選局ができません。
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FM の受信感度は少し落ちているようです。
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AM は全く問題なく良好です。
受信感度も良好です。
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AM ループアンテナの問題
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AM ループアンテナも一緒に送られてきたのですが、まずは純正ではありません。
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AM の場合、ループアンテナも同調回路の一部です。
これで調整するとこのアンテナ専用になります。
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送られてきた AM ループアンテナの半分以上が解かれています。
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これでは AM ループアンテナの機能を果たしません。
修理が必要です。
リペア
・・・ ボタン操作による動作がメチャクチャなので、まずは修理しないと再調整できません
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同調ノブが異様に硬い
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グリスの固着なので、無水アルコールを軸に流し込んで、グリスを少し溶解してみました。
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これでダメならロータリエンコーダの交換が必要になります。
幸い、この方法で直りました。
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[デジタル信号計が使用できない] [プリセットができない] の修理
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タクトスイッチの ON 抵抗が高くなり、ボタンに対応した動作ができなく、誤動作するためです。
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この機種のタクトスイッチ回路は電圧値を取り込んで AD 変換しているので、タクトスイッチが劣化すると誤動作します。
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この方式は経年変化にとても弱いです。
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24個あるタクトスイッチを一斉交換しました。
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この交換は非常に手間と時間がかかります。
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1つのタクトスイッチあたり4本のリードで半田付けされているので、全部で96本のリードを外す必要があります。
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右の写真が、実装されていた劣化したタクトスイッチです。
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基板のパターンを痛めないため、以下の作業方法としました。
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古いタクトスイッチはリードを精密ニッパーで切断して外し、基板に残ったリードを半田ゴテで外しました。
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半田ゴテは 15W の精密級を使いました。
40W だと基板のパターンが剥がれます。
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なんとか全数交換を完了し、直りました。
もうバッチリ動作します。
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[2時間ぐらい通電しないと STEREO 受信ができない] [自動チューニングができない] の修理
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原因は経年変化による調整ズレです。
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おそらく、湿度の高い場所に保管されていたため、本来の経年変化以上にズレてしまっています。
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なんとか、調整可能な範囲のズレに収まっていたので、再調整だけで直りました。
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リアパネルの端子にサビがある
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ピカール
で軽くマイクロ研磨してサビを落としました。
仕上げにグリスを薄く塗ってサビ止めしました。
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ついでに10本あるケース取付ネジの頭部分だけピカールでマイクロ研磨して、グリスでサビ止めしました。
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AM ループアンテナに問題あり
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ループ部分を巻き直して修理完了しました。
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この AM ループアンテナ用に調整しました。
K さんの要望と考えました。
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クリーニング
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無水アルコールを使って、汚れをできるだけ取り除きました。
完全に綺麗にはできませんが、ややマシになりました。
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全体を OA クリーナで清掃しました。
調整
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電圧チェック
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ジャンパーで測定します。
電圧の実測値は以下のように正常でした。
VP |
標準値 |
実測値 |
備考 |
JW035 |
+13V |
+13.12V |
チューナ用 |
JW034 |
+5.6V |
+5.59V |
デジタル用 (MCU) |
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ST-SA50ES (1号機)
に記載の手順で再調整しました
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高調波歪は、[WIDE:0.06%] [NARROW:0.15%] (stereo 1kHz) でした。
問題なく良好です。
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ステレオセパレーションなどは以下となりました。
良好な数値です。
項目 |
IF BAND |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション |
WIDE |
53 |
53 |
dB |
ステレオセパレーション |
NARROW |
58 |
57 |
dB |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
-76 |
-75 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 (MONO) |
0 |
+0.05 |
dB |
使ってみました
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全体的にゴールド基調でなかなか優れたデザイン
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ともかく格好イイです。
さすが SONY です。
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RCA 端子も金メッキされており高級感あります。
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リアパネルや内部のネジは銅メッキされています。
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FM 電波入力レベルを正確に dB 表示できます。
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プリセットメモリは30局分あり、十分です。
放送局名を英数カナ文字で記憶&表示することができます。
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放送を受信してチェック
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FM
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良好な感度と十分な妨害電波排除能力があります。
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クォードラチュア検波特有のソフトな音で、低音に厚みを感じます。
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AM
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一緒に送られてきた右の写真の AM ループアンテナで最高感度になるよう調整しています。
このアンテナは ST-SA50ES の純正品ではありません。
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感度はとても良いです。
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本機は AM stereo 対応ですが、放送が終わってしまったのが残念です。