Technics ST-9030T (2号機) が到着
2022年9月20日、福井市の K さんから
Technics ST-9030T
の修理依頼品が到着しました。
写真は照明 LED 化後です。
野暮ったい電球色から、現代的なクリーム色とホワイト色に変わりました。
完全 LED 化ですから、今後、ランプ切れはまずないと思います。
高級 FM 専用機
です。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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数年前にヤフオクで入手した ST-9030T を日々使ってきたのですが、最近色々不具合が気になってきました。
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受信はしており音は聞けるのですが、ステレオ感がなく、インジケーターも点灯していません。
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他のインジケーターも点灯しておりません。
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メーターの左側が点灯していません。
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外観
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製造シリアル番号は [AD74250050] で、電源コードの製造マーキングより [1977年製造] とわかりました。
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全体に細かいキズが多いですが、醜くはなく実用範囲です。
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フロントパネルは離れて見ると綺麗ですが、近づいてじっくり見るとアチコチに細かいキズがあります。
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リアパネルは綺麗です。
RCA 端子に輝きがあります。
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F 端子はオリジナル品ではなく、別物に交換されています。
ネジが緩んでガタついています。
手直しが必要です。
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側面パネルは汚れやスレはありますが、そう問題ないです。
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天板・底板には汚れがありますが、そう問題はないです。
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電源 ON してチェック
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電源は正常に ON しました。
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ランプはあちこち切れており、[ダイヤル面の左側照明] [S メータ照明] [wide] ランプが切れています。
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[S メータ] の最大位置で [T メータ] がセンタにならず、検波回路の調整が大きくズレています。
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おそらく上記が原因で、音が歪っぽいです。
ステレオにもなっていないようです。
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まずはランプ切れを直さないと動作状態を把握できないので再調整もできません。
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カバーを開けてチェック
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あちこちいじくった形跡があります。
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フロントエンドの上カバーがありません。
無くても支障はないです。
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ランプは FUSE 型を5個使用しており、そのうち4個が切れていました。
メータの照明もこのランプでやっています。
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既に [電解コンデンサ] の一部と [半固定抵抗] が交換されていました。
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交換された [電解コンデンサ] にはオーディオグレード品が使われているので、このままにします。
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交換された [半固定抵抗] にはハイグレード品が使われているので、このままにします。
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交換するのは構わないが、ちゃんと調整されているのかしら???
再調整で全部見直します。
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写真の中央に写っている白いビニールテープで巻かれた不気味な電線が2本ありました。
LED 化の時に手直しします。
リペア
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あちこちランプ切れしている
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まずは、これを直さないとチューナがどのモードで動作しているかわからないのです。
最優先事項
です。
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フィラメントランプは交換しても、またいつか切れます。
そこで全部 LED 化します。
使った LED は以下です。
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左はダイヤル面とメータの照明に使います。
色温度 6000K の白色 LED ランプです。
全部で5個使います。
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右は [wide] [stereo] 表示に使う 3mm 白色 LED です。
1560mcd、照射角 70°です。
全部で2個使います。
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[フィラメントランプ]→[LED] への回路
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[ダイヤル+メータ] のランプは AC 駆動だったので、LED が必要とする [DC 電源回路] を新設しました。
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この回路で、[FUSE 型 LED] の供給電圧は DC8.5V くらいになります。
自動車用なので定格は DC13.8V。
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[wide] のランプは DC 駆動なので、R327 の電流制限抵抗を変更して LED と置き換えました。
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[stereo] のランプは DC 駆動なので、R618 の電流制限抵抗を変更して LED と置き換えました。
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これだけだと、[stereo] ランプ駆動回路の漏れ電流でステレオでない時も薄っすらと点灯してしまいました。
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LED は VF 電圧を超えると微弱な電流でも光ってしまうのです。
ある意味、フィラメントランプより感度が高い。
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対策として 1kΩ の電圧制限抵抗を入れました。
漏れ電流があっても VF 電圧以下にする。
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左の写真の真ん中の部分は [ダイヤル+メータ] 用の [DC 電源回路] です。
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右の写真は LED への配線の様子です。
[赤] [黒] の細い電線が今回配線したものです。
高級な耐熱電線を使いました。
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下の写真は、LED 化後のフロントパネルです。
全ての照明やインディケータが明るく点灯しています。
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ダイヤル面はもっと白っぽい表示になるかと思っていたのですが、ダイヤル板がクリーム色なので、やや暖色になりました。
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この色合いが素敵です。
設計者が本来めざした色合いのような気がします。
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メータの照明は白色となり、イイ具合です。
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[wide] [stereo] 表示は白色 LED で点けているのですが、橙色のフィルタが入っているのでオレンジ色です。
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LED への電流は定格の 20% しか流していないので、この5倍の照度まで上げられますが ・・・
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これより照度を上げると明る過ぎるのでこの程度がよいです。
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部屋を薄暗くしても眩しくなく、落ち着いて放送を聴けます。
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LED 化により消費電力が大きく減ってエコになりました。
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フィラメントランプの時は 6.3V×250mA×5個+6.3V×40mA×2個=8.4W 消費していました。
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LED 化後の照明での消費電力は 0.2W 以下になりました。
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LED 化後の [ダイヤル+メータ] の LED に流れ込んでいる電流は5個全部で 20mA です。
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LED 化後の [wide] [stereo] の LED に流れ込んでいる電流は、それぞれ 2mA です。
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[stereo] ランプは MPX IC の [AN363N] が直接駆動していますが、流れる電流が大きく減ったので発熱が減りました。
安定動作と寿命にメリットです。
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すなわち、8.4W→0.2W となり、明るくなったのに 8.2W もエコになったのです。
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電気代が減るので長い目でみると LED 化の改造費は回収できるかも???
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白いビニールテープで巻かれた不気味な電線が2本ある
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LED 化作業の時に不気味な電線を取り除き、正式配線しました。
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F 端子のネジが緩んでガタついている
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バリコン軸の接触回復
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現象としては、チューニングノブ動作で受信音にガサゴソ雑音が入るのです。
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本機は45年物ビンテージ (2022年現在) です。
バリコン軸の接触回復は必須です。
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを爪楊枝で丹念に落とします。
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[1]〜[2] を何度も何度も繰り返します。
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仕上げに、軸受けに
コンタクトグリース
を塗布して防錆処置します。
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8連バリコンなので、結構手間がかかりましたが、以上で回復しました。
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検波回路の調整が大きくズレており、音が歪っぽい
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大きな要因は検波回路の調整ズレです。
再調整で直りました。
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天板が後ろ側で接触する部分のサイドパネルに塗装ハゲがある
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自動車用の [タッチペン(つや消し黒)] で補修塗りしました。
目立たない部分ですが、念のため。
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元、基板に実装されていた部品の記録
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左から [FUSE 型ランプ]×5個、[wide] ランプと抵抗、[stereo] ランプと抵抗 です。
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[stereo] ランプはオリジナルではなく、別物に交換されていました。
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以上の修理でしばらく正常に動作していたのですが、別の現象が出ました!
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現象
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[servo tuning] スイッチ ON 位置でミューティングがかかったままになる。
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[stereo] ランプも消えたままで点灯しない。
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調査
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下の回路図はミューティッグ回路の一部です。
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Bの電圧が +12V にならないとミューティング解除 (Muting=OFF) できません。
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Bの電圧が 0V の時はステレオ復調を強制的に OFF する回路が働くので、[stereo] ランプは点きません。
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不具合現象との辻褄が合います。
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[TR410] と抵抗で NAND 回路を形成しており、[T メータ=0V] [S メータレベル=あり] [Band Muting レベル=なし] の条件が全て揃うと、[TR410] ベース電圧が 0V になって、Bの電圧が +12V になってミューティッグ解除します。
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この3つの条件のどれが悪さしているか調べると、[T メータ=0V] の条件が成立していませんでした。
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T メータ電圧は@から入力され、[TR406] [TR407] のエミッタフォロアを介して、[TR408] [TR409] の差動回路で同調点検出します。
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Aの電圧は -0.6V か +12V のどちらかの電圧を出力します。
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ところが、T メータがセンタの時にAの電圧が +6.6V で中途半端な異常な電圧でした。
ここがおかしい!
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修理
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[TR406] [TR407] [TR408] [TR409] と、念のため [C405] を交換して直りました。
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
TR406 |
2SC945 |
2SC1815 |
トランジスタ |
TR407 |
2SA733 |
2SA1015 |
トランジスタ |
TR408 |
2SC945 |
2SC1815 |
トランジスタ |
TR409 |
2SC945 |
2SC1815 |
トランジスタ |
C405 |
1uF/50V |
オーディオ用 2.2uF/50V (MUSE/BP) |
バイポーラ 電解コンデンサ |
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Aの電圧は T メータがセンタ付近位置で -0.6V、これ以外では +12V にちゃんと切り換わるようになりました。
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左の写真で黄〇で囲んだ黒と緑の部品が交換後のトランジスタとバーポーラ電解コンデンサです。
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右の写真は、交換前に基板に実装されていた部品です。
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実際に放送を受信してチェック
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[servo tuning] スイッチ ON 位置で、放送を受信するとミューティングが解除され [stereo] ランプも点灯します。
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完全に直りました!!!
再調整
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電源電圧チェック (VP)
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以下のように良好です。
VP |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
TR801-E |
+12.7V |
+13.2V |
〇 |
TR802-E |
+12.7V |
+13.2V |
〇 |
TR803-E |
-12.7V |
-12.5V |
〇 |
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調整結果
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ST-9030T (1号機)
に記載の手順で調整しました。
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オーディオ出力レベルなどが上がり過ぎていたので、適正値に調整しました。
この他にも不適正調整箇所がありました。
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本機は半固定抵抗を一斉交換されているので、この交換時に調整値を間違ったのだと思います。
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歪っぽかった音が聴き違えるほど良い音になりました。
これが ST-9030T の本来の音です。
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ステレオセパレーションなどは以下となりました。
良好な数値です。
項目 |
IF select |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
wide |
50 |
48 |
dB |
narrow |
42 |
41 |
dB |
パイロット信号キャリアリーク |
wide |
-83 |
-82 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 (MONO) |
0 |
+0.11 |
dB |
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実際の受信周波数とダイヤルスケールとのズレは以下の通りです。
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トラッキング調整は 78MHz と 88MHz の2点で実施しているので、この周波数以外ではややズレます。
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ズレはバリコンの精度によります。
この程度はスペック内です。
周波数 (MHz) |
76 |
77 |
78 |
79 |
80 |
81 |
82 |
83 |
84 |
85 |
86 |
87 |
88 |
89 |
90 |
スケールの読み |
75.98 |
77.00 |
78.00 |
79.01 |
80.05 |
81.08 |
82.10 |
83.10 |
84.08 |
85.05 |
86.03 |
87.00 |
88.00 |
89.00 |
90.03 |
使ってみました
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デザイン
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鉄の塊のようなチューナで、ズッシリ重いです。
そして頑丈な作りです。
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ダイヤル面はクリーム色で、ホンノリ照明されており、上品です。
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ダイヤルとのズレも少なく、高精度のバリコンを使っています。
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チューニングノブは重量感と質感があり、操作性も良好です。
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FM アンテナ入力は F 端子なので、雑音電波が混入しないです。
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[OUTPUT LEVEL] ツマミで出力レベルを可変できます。
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高感度で高音質
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豪華な作りで妨害排除能力が高く、S/N が非常に良く、結果的に高感度になっています。
スペック以上の受信能力があります。
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音のエネルギーが低域から高域までスッキリ伸びており、かなりの高音質です。