Technics ST-9030T (4号機) が到着
2023年4月6日、富山県高岡市の F さんより
Technics ST-9030T
の修理依頼品が到着しました。
高級 FM 専用機
です。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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T メータがおかしいようです。
S メータが一番振れたところでセンタにならないようです。
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スイッチ類がうまく働いていないようです。
ステレオランプが点きません。
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外観
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製造シリアル番号は [AG7221B080] で、電源コードの製造マーキングより [1976年製造品] とわかりました。
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フロントパネルはパッと見は綺麗です。
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上部のエッジにポツポツとしたキズはあるのですが、半世紀物としては許容範囲です。
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スイッチのボタンにゴミが付いています。
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[リアパネル] は、汚れはありますがそう問題はないです。
RCA 端子に白いサビが出ています。
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[天板] [底板] [側板] は、汚れはありますがそう問題はないです。
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電源 ON してチェック
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電源は正常に ON しました。
照明のランプ切れはないです。
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[servo tuning] スイッチを off にして muting off にしないと音が出ません。
出てくる音はモノラルですがマトモです。
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[S メータ] の動きはほぼ正常ですが、[T メータ] の動きがおかしく同調点がズレているようです。
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[stereo] ランプが点灯しません。
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カバーを開けてチェック
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内部は非常に綺麗ですが、各ボリューム、各 IFT などをいじくった形跡があります。
リペア
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[T メータ] の動きがおかしく同調点がズレている
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同調点を決める [T102] [T201] を仮調整したら [T メータ] の動きは正常になりました。
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この時点で muting on でも途切れ途切れですが音が出るようになりました。
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また、[wide] [stereo] ランプも点いたり消えたりしますが表示されるようになりました。
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他にもおかしいところがあるようです。
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muting on では音が途切れ途切れになる
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MUTING IFT の [T202] [T203] を仮調整したら音が途切れ途切れになる現象が直り、正常に音が出るようになりました。
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同時に [wide] [stereo] ランプが点滅する現象も直りました。
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[stereo] ランプが点灯しステレオの良い音が出るようになりました。
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servo tuning 機能も正常になり、サーボロックされるようになりました。
もう全く正常です。
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やっとマトモに受信できるようになったので、あらためてチェックしました。
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78MHz 以下の周波数で同調ノブを回すとガソゴソという雑音が出ます。
78MHz 以上では雑音は出ないです。
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他にも劣化している箇所があるかもしれませんが、これは再調整をしてみて性能データに異常があれば対処します。
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78MHz 以下の周波数で同調ノブを回すとガソゴソという雑音が出る
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原因はバリコン軸の接触不良です。
本機は半世紀物ですから、バリコン軸の接触回復は必須です。
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを爪楊枝で丹念に落とします。
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[1]〜[2] を何度も何度も繰り返します。
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仕上げに、軸受けに
CRC 5-56
を塗布して防錆処置します。
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8連バリコンなので、結構手間がかかりましたが、以上で回復しました。
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スイッチのボタンにゴミが付いている
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ゴミを完全に除去するためにフロンパネルを外してボタンを清掃しました。
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ボタンはプラスチックで、ボタンを支えるのもプラスチックなので擦れてゴミのようになるのです。
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清掃してから、ほんの僅か
CRC 5-56
を塗布して摩擦を軽減しました。
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フロントパネルを外したついでに、以下の清掃なども行いました。
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ダイヤルスケールにある透明ガラスの裏側に煤のような汚れが付着しており、清掃でクッキリ見えるようになりました。
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[tuning ノブ] [power レバー] の汚れを除去しました。
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[S メータ] [T メータ] をフロントパネルに両面テープで貼り付けていますが、両面テープが劣化していました。
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劣化した両面テープを完全に除去し、ポリミイドテープに置き換えました。
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ポリミイドテープは260℃の耐熱性があり経年変化しません。
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もちろん、フロントパネルも清掃しました。
黒い汚れが全体に付着していました。
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RCA 端子に白いサビが出ている
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サビ落としをやってピカピカとした輝きが戻りました。
新品同様という訳ではありませんが問題なく使えます。
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使わない RCA 端子にはダストカバー装着をお奨めします。
サビを防げます。
再調整
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電源電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように良好です。
VP |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
TR801-E |
+12.7V |
+12.6V |
〇 |
TR802-E |
+12.7V |
+12.6V |
〇 |
TR803-E |
-12.7V |
-12.5V |
〇 |
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調整結果
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ST-9030T (1号機)
に記載の手順で調整しました。
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フロントエンドで大きく調整ズレがあり、再調整にて感度がかなり上がりました。
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トラッキング調整で指針のズレはほぼ ±0.1MHz 以内に入りました。
バリコンの精度に依存するので、完全にゼロにはできません。
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再調整で音質が大きく向上して良い音になりました。
ステレオセパレーションなどは以下となりました。
良好な数値です。
項目 |
IF select |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
wide |
stereo |
59 |
49 |
dB |
narrow |
38 |
40 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
wide |
mono |
0.070 |
% |
stereo |
0.10 |
% |
narrow |
mono |
0.30 |
% |
stereo |
0.30 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
wide |
stereo |
-86 |
-88 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
wide |
mono |
0 |
0 |
dB |
使ってみました
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デザイン
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鉄の塊のようなチューナで、ズッシリ重いです。
そして頑丈な作りです。
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ダイヤルとのズレも少なく、高精度のバリコンを使っています。
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同調ノブは重量感と質感があり、操作性も良好です。
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FM アンテナ入力は F 端子なので、雑音電波が混入しないです。
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高感度で高音質
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豪華な作りで妨害排除能力が高く、S/N が非常に良く、結果的に高感度になっています。
スペック以上の受信能力があります。
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音のエネルギーが低域から高域までスッキリ伸びており、かなりの高音質です。