TRiO KT-1100 (2号機) が到着
2022年6月26日、さいたま市の N さんより
TRiO KT-1100
の修理&再調整依頼品が到着しました。
2箇所の複合故障だったので、修理に時間がかかりました。
パルスカウント検波
が特長のチューナです。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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KT-1100 の中古故障品を調整&修理しようと入手したのですが、まったくダメでお手上げでした。
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モノラルにして [不良トリマ] を回すと指針とはかなりズレた位置でノイズの中に FM 放送をかすかに受信する時があります。
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ステレオにすると一切音は出ません。
AM も一切音が出ません。
ただし針は振れます。
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[REC CAL] も一切音が出ません。
球切れはありません。
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[KT-990 より高級機] [一目見た瞬間からカッコいい] [お奨めの機種とのこと] で、このまま放おっておくには惜しいと思っています。
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修理&再調整をお願いします。
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外観
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製造シリアル番号は [31200337] です。
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正面から見たフロントパネルはかなり綺麗です。
以下のキズ等があります。
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フロントパネルの天板への折り返し部分に線キズなどがあります。
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リアパネルに薄いサビがあります。
以下の改造と汚れ等があります。
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FM アンテナ入力端子が [ワンタッチ端子]→[F端子] に交換されています。
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[電源コード直出し部分]→[メガネ端子] に交換されています。
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上記2箇所の改造は上手にされていて、好感が持てます。
修理依頼者は器用なかたのようです。
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天板は少し汚れはありますが綺麗なほうです。
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底板は非常に綺麗です。
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[AM ループアンテナ] の添付がありました。
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電源 ON してチェック
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ランプ切れはありません。
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FM は受信操作で以下が確認できましたが、音が出ません。
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同調してみると [S メータ] [T メータ] は振れて放送局はキャッチしているようです。
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[STEREO] ランプがどの周波数でもチラチラ点滅しています。
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[IF BAND] スイッチを [WIDE] に切り換えても [NARROW] ランプが薄っすら点灯します。
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AM は受信操作で以下が確認できましたが、音が出ません。
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同調してみると [S メータ] [T メータ] は振れて放送局はキャッチしているようです。
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[REC CAL] ボタンを ON にしてもテスト音が出ません。
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本機はチューニングノブがタッチセンサーになっているのですが、このタッチセンサーが動作している気配がありません。
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カバーを開けてチェック
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IC のロット番号より、本機は1983年製とわかりました。
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FM フロントエンドの OSC 同調回路に (修理依頼者で) 外付けでトリマコンデンサが追加されていました。
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追加された外付けトリマコンデンサの取付が雑なので、ここは手直ししたほうがよさそうです。
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FM フロントエンド内にオリジナルのトリマコンデンサが付いたままなので、これは取り外したほうがよいです。
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オリジナルのトリマコンデンサは腐食しているので、いつ短絡してもおかしくないです。
リペア
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FM/AM とも音が出ない
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原因は +7V 電源電圧が故障して出力されていないからからです。
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電圧チェックでは +4.8V の電圧が確認できましたが、これは +7V 電源が出力しているのではなく、他の回路からの回り込み電圧です。
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+7V 電源の出力がないと [ミューティングリレーのドライブ回路] [REC CAL ON/OFF 回路] [タッチセンサー回路] などが動作しません。
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更に調べると D34 ツェナーダイオードが短絡故障していました。
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D34 を NEC RD7A ツェナーダイオードと交換して直りました。
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右の写真は修理後で、中央より上側で電解コンデンサ2個に挟まれた黒い部品が RD7A です。
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この修理で、[AM 受信音] [REC CAL テスト音] は出るようになりましたが、
FM はまだ音が出ません。
更に故障部位があるようです。
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この修理で、以下の現象も直りました。
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[WIDE] に切り換えても [NARROW] ランプが薄っすら点灯する現象
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タッチセンサーが効いていない現象
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FM で音が出ない
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原因はパルスカウント検波で使う [2nd OSC] が発振していないからです。
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[2nd OSC] は [L6] 同調コイルを使って発信します。
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[L6] を外してチェックすると、内蔵チタコンが腐食して短絡していました。
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[L6] は TRiO 専用品なので代替品がありません。
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[L6] からチタコンを取り外してコイルだけにして再度基板に実装し、内蔵チタコンの代わりに 82PF 温度補償型積層セラミックコンデンサを外付けしました。
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右の写真の青い部品が積層セラミックコンデンサです。
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2nd OSC の発振周波数は数%ズレても問題ないので、コンデンサ外付けでも大丈夫です。
計算してみると ・・・
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温度補償型積層セラミックコンデンサの温度勾配は 30ppm/℃ です。
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周囲温度25℃を中心に±25℃の温度変化 (0〜50℃) があるとします。
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30ppm×25℃=750ppm=0.075% です。 ±0.075% しか容量変化せず、全然問題ないです。
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FM で音が出るようになりました!!!
2nd OSC が発振したのです。
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外付けトリマコンデンサの取り付けが雑
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右の写真のように手直ししました。
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下側の青い部品が外付けトリマコンデンサです。
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FM フロントエンド内にある故障したトリマコンデンサは除去しました。
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バリコン軸の接触回復
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本機は39年物ビンテージ (2022年現在) です。
バリコン軸の接触回復は必須です。
以下のようにしました。
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを爪楊枝で丹念に落とします。
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[1] と [2] を何度も何度も繰り返します。
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仕上げに、軸受けに
コンタクトグリース
を塗布して防錆処置します。
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結構手間がかかりましたが、以上で回復しました。
再調整
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電圧チェック
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以下のように良好でした。
修理後です。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
Q19-E |
+13V |
+13.4V |
〇 |
Q20-E |
-13V |
-13.3V |
〇 |
Q23-E |
+7V |
+6.90V |
〇 |
Q24-E |
-7V |
-7.10V |
〇 |
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調整結果
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KT-1100 (1号機)
に記載の手順で調整しました。
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あちこちにズレがありましたが、全て基準値内に調整できました。
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FM ステレオ時の高調波歪率は 0.011% (WIDE 1kHz) で優秀です。
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FM ステレオセパレーションなどは以下の通りです。
優秀な数値です。
項目 |
IF BAND |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
61 |
58 |
dB |
NARROW |
57 |
55 |
dB |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
-81 |
-74 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 (mono) |
0 |
+0.09 |
dB |
FM REC CAL 信号 |
430.7 |
Hz |
-6.2 |
-6.2 |
dB |
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AM は添付された AM ループアンテナで最高感度になるよう調整しました。
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AM はトラッキングが大きくズレていましたが直りました。
使ってみました
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非常にスッキリしたデザイン
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写真より実際に見た時のほうが高級感あります。
デザインが巧妙です。
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奥行は 337mm しかなく設置が楽です。
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フロントパネルはアルミヘアライン仕上げです。
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チューニングノブは直径 46mm の無垢アルミです。
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ダイヤルスケールは正面を向いており照明はありません。
ダイヤル指針が赤い LED 表示で見易く精密感があります。
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S メータと T メータは斜め上方向きに取り付けられており、視線より低い位置に設置される前提です。
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感度や音質
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FM は TRiO らしい高解像度でカチッとした高音質です。
感度はかなり良いです。
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やはり、パルスカウント検波の音は良いです。別格です。
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AM は高感度で S/N が高いです。
WIDE/NARROW 切り換えが有効で、WIDE 時はかなり高音が出て高音質です。