TRIO KT-8300 (3号機) をゲット!
2023年1月31日、川崎市の Y さんより故障した
TRIO KT-8300
の寄贈品が到着しました。
パルスカウント検波
で
FM 専用機
です。
程度&動作チェック
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寄贈者のコメント
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致命的な故障はないと思います。
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以前受信が安定しないのでトリマとか適当にいじってしまい、全く受信できなくなってしまいました。
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外観
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保証書が付属していたので、ワンオーナと思います。
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保証書から製造シリアル番号は [940640] で、購入日は [1979年9月13日] とわかりました。
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本体の製造シリアル番号シールは剥がれています。
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全体にかなり綺麗な逸品です。
もちろん、よくよく見れば細かいキズ&スレはあるのですが目立ちません。
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リアパネルの端子類にも輝きが残っています。
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[POWER] スイッチのレバーが少し右側に曲がっています。
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[MUTING] スイッチが OFF 位置 (押し込んだ位置) に設定できずに ON 位置に戻ってしまうことがあります。
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[OUTPUT LEVEL] ノブに僅かなガタがあります。
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電源 ON してチェック
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電源は問題なく入り、ランプ切れはありませんでした。
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ダイヤル機構にガタがあるようです。
まずは、これを直さないと再調整に入れません。
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85.1MHz の放送局が、[同調] ノブを 低→高 方向に回していくと 84.4MHz で受信します。
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同じ放送局が、[同調] ノブを 高→低 方向に回していくと 84.0MHz で受信します。
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バックラッシュが 0.4MHz (84.4-84.0=0.4MHz) あるということです。
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更に同調ズレも -0.9MHz ((84.4+84.0)/2-85.1=-0.9MHz) あります。
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受信できた時は、[STEREO] ランプが点灯します。
ステレオ感はあり、音も良いです。
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[OUTPUT LEVEL] ノブを回すと少しガリ音が出ます。
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カバーを開けてチェック
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基板全体に薄っすらとススのような汚れがあります。
動作には支障はなさそうです。
リペア
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同調機構にバックラッシュが 0.4MHz ある
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右の写真はバリコンのギヤ機構です。
[A] ギヤはプーリー軸と連結されており、[B] ギヤはバリコン軸と連結されています。
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[B] ギアは2枚重ねで、バネが重ね合わせ角度を微妙に調整し、バックラッシュを最小にします。
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カバーを開けた時、写真の黄色矢印の隙間が 5mm 程度になっており、プーリー軸がグラついて [A] [B] ギアの咬み合わせが悪くなってバックラッシュが発生していました。
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写真のように、この隙間が 0.2〜0.5mm 程度が正しいです。
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修理
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[A] ギヤの左側の隙間に太めのマイナスドライバの先を入れて右側に押し出しながら、プーリー軸の先端をハンマで軽く叩くと、[A] ギアとプーリー軸が連結固定されます。
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連結固定される感じがしなくて、プーリー軸がスルッと抜けてしまう場合は、プーリー軸を [A] ギアから一旦抜き、180度回転してから挿入し直すとうまくいくと思います。
[A] ギアとプーリー軸の組み方に相性があります。
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これ以上摩耗が進まないよう、ギヤの咬み合わせ部分をグリスアップしました。
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修理の結果、バックラッシュは 0.18MHz に軽減できました。
KT-8300 ダイヤルスケールの1目盛以下。
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プーリー軸が外れかかった状態で長年使用されたためギアが摩耗しているのか、これ以上は改善しませんでした。
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放送周波数に対して ±0.9MHz ですから、そう問題はないです。
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なお、メカニカル構造のため、バックラッシュを完全にゼロにすることはできません。
0.1MHz 以下にできれば合格。
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同調ズレは後述の再調整で直りました。
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[POWER] スイッチのレバーが少し右側に曲がっている
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レバープレートの曲がりが原因でした。
ラジオペンチでレバープレートを補正して直りました。
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[MUTING] スイッチが OFF 位置に設定できずに ON 位置に戻ってしまうことがある
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スイッチの動きが重くなっているのが原因でした。
可動部に潤滑剤の
CRC 5-56
を塗布して直りました。
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[OUTPUT LEVEL] ノブに僅かなガタがあり、回すと少しガリ音が出る
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ガタはボリューム軸固定六角ナットの緩みが原因でした。
六角ナットを増し締めして直りました。
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ガリ音はボリュームの隙間から
エレクトロニッククリーナ
を流し込んで洗浄したら直りました。
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バリコン軸の接触回復
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本機は44年物ビンテージ (2022年現在) です。
バリコン軸の接触回復は必須です。
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを爪楊枝で丹念に落とします。
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[1] と [2] を何度も何度も繰り返します。
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仕上げに、軸受けに潤滑剤の
CRC 5-56
を塗布して防錆処置します。
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大量の緑青サビが除去できました。
結構手間がかかりましたが、以上で回復しました。
再調整
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電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように良好です。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
Q19-E |
+14V |
+14.6V |
〇 |
D19-A |
-13.5V |
-13.8V |
〇 |
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調整結果
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KT-8300 (1号機)
に記載の調整手順で再調整しました。
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FM ステレオセパレーションなどの数値は以下で、良好です。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
55 |
59 |
dB |
NARROW |
61 |
57 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.015 |
% |
stereo |
0.015 |
% |
NARROW |
mono |
0.1 |
% |
stereo |
0.1 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-74 |
-81 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
+0.07 |
dB |
使ってみました
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デザインは良いが、ともかくデカイ
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フロントパネルはかなり分厚いアルミ材のヘアライン仕上げで良好です。
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電源を入れるとダイヤルスケールが浮き上がって表示され、美しいです。
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受信性能&音質
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感度や妨害波排除能力は良いです。
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音は無味無色のパルスカウント検波そのものです。