TRIO KT-9900 (2号機) が到着
2023年7月11日、宮城県岩沼市の O さんから
TRIO KT-9900
の修理依頼品が到着しました。
この個体は修理不可判定したので、その記録だけの記事です。
綺麗な状態だったのに残念です。
程度&動作チェック
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依頼者のコメント
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症状は電源入り 地元局にチューニングすると S メータが振れますが、左右から全く音が出ない状態です。
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いろいろスイッチをいじっていますがガリともザっとも音が出ません。
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ヤフオクでメンテナンス済品を買いました。
最初は問題なく音は出て使用できていました。
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外観
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製造シリアル番号は [850338] で、電源コードに製造マーキングがなかったので製造年は不明です。
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全体的に新品同様に見える、かなり綺麗な逸品です。
僅かなキズやスレはありますが目立ちません。
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リアパネルは綺麗です。
端子には輝きが残っています。
丁寧に使われてきたようです。
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電源 ON してチェック
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電源は問題なく入り、ランプ切れはないです。
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音が全く出ませんが、[S メータ] [T メータ] は正しそうに振れます。
音が出ないので [D メータ] も全く振れません。
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音が出ないので、[S メータ] [T メータ] を信用すると、全体に +0.2MHz 程度の周波数ズレがあります。
80MHz の放送が、指針が 80.2MHz で受信。
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音が出ないので、これ以上チェックできません。
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カバーを開けてチェック
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内部は綺麗です。
目視で劣化していているとわかる部品は見当たりません。
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使用 IC のロット番号より、本機は [1978年製造品] とわかりました。
リペア (その1):音が全く出ない → 結局 [DET 基板] オーバーホール
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故障部位切り分け
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[MULTIPATH-H] 端子にアンプの RCA プラグを差し込んでみましたが、ここにも音が出ていません。
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この端子は検波出力です。
検波出力が出ていないとなると [DET 基板] [IF 基板] が怪しいです。
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オシロスコープで [IF 基板 25番ピン]→[DET 基板] へ 2nd IF の 1.96MHz 入力が確認できました。
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こうなると不具合部位は [DET 基板] ということになります。
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[DET 基板] はローカル電源回路を持っており +13V / -13V の電圧を作成します。
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+13V ラインは正常に出ていましたが、-13V ラインには +7.2V の電圧が出ていました。
[DET 基板] 故障確定!!!
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マイナスの電圧がプラスに化ける訳はないので、この +7.2V はプラス側回路からの回り込みと思います。
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おそらく、-13V を作成する [Q16] 2SA733A か [IC4] NJM4558D の故障と思います。
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[DET 基板] の [Q16] [IC4] を交換
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最初に [Q16] を 2SA1015-GR に交換してみましたが直りません。
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次に [IC4] を同じ型番の NJM4558D に交換したら直りました。
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原因は [IC4] NJM4558D 故障でした!!!
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右の写真は取り外した [NJM4558D] [2SA733A] です
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マイグレーションは金属カビのようなもので、IC の pin 間をレアショートさせます。
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マイグレーションは電位差のある pin 間で発生します。
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[NJM4558D] が故障したそもそもの原因はマイグレーションと思います。
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[DET 基板] のその他のトランジスタの足も真っ黒になっています。
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こちらもマイグレーションが発生しています。
いずれ障害として顕在化します。
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予防保守としてトランジスタを一斉交換しました。
交換リストは以下です。
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右の写真は交換前に [DET 基板] に実装されていたトランジスタです。
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交換後は音が良くなりました。
やはりマイグレーションで劣化していたようです。
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
Q1〜8, 10 |
2SC535 |
2SC1815-GR |
Q9, 11〜14 |
2SA836 |
2SA1015-GR |
Q15 |
2SC1384 |
2SC2655-Y |
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[DET 基板] の電解コンデンサを全数一斉交換
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[DET 基板] のトランジスタを一斉交換している時に気が付きました。
[C23] 100uF/16V 電解コンデンサが液漏れしていました。
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原因は [IC4] 故障により長時間逆電圧が印加されていたためと思います。
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マイナス側ラインにずっとプラス電圧が掛かっていた訳で、逆電圧が電解コンデンサに掛かっていたことになります。
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電解コンデンサも全数一斉交換しました。
交換リストは以下です。
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右の写真はこれまで基板に実装されていた電解コンデンサです。
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
C1 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (MUSE) (BP) |
オーディオクラスに交換 |
C2 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (MUSE) (BP) |
C3 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (MUSE) (BP) |
C4 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (MUSE) (BP) |
C9 |
100uF/10V (85℃) |
100uF/25V (105℃) |
105℃クラスに交換 |
C11 |
220uF/10V (85℃) |
220uF/16V (105℃) |
C12 |
47uF/16V (85℃) |
56uF/35V (105℃) |
C13 |
220uF/10V (85℃) |
220uF/16V (105℃) |
C14 |
100uF/16V (85℃) |
100uF/25V (105℃) |
C15 |
47uF/35V (85℃) |
56uF/35V (105℃) |
C18 |
100uF/16V (85℃) |
100uF/25V (FG) |
オーディオクラスに交換 |
C19 |
100uF/16V (85℃) |
100uF/25V (105℃) |
105℃クラスに交換 |
C20 |
47uF/10V (85℃) |
56uF/35V (105℃) |
C21 |
47uF/10V (85℃) |
56uF/35V (105℃) |
C22 |
100uF/10V (85℃) |
100uF/25V (105℃) |
C23 |
100uF/16V (85℃) |
100uF/25V (105℃) |
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結局、[DET 基板] についてはオーバーホールとなりました
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オーバーホール前
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オーバーホール後
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トランジスタの外形が変わりました。
電解コンデンサが小さくなってカラフルになりました。
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IC とトランジスタの足にワニスコーティングして将来のマイグレーション発生を予防しました。
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音が出るようになったので、新たな問題が発覚!
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これまで音が出なかったので、雑音の問題がわからなかったのです。
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受信音に時々 [バリバリ] [ボソボソ] の雑音が出ます。
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両チャンネルに同じように出るので [フロントエンド] [IF 基板] [DET 基板] のいずれか、または複数が要因です。
リペア (その2):[バリバリ] 雑音が出る
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[バリバリ] 雑音は [IF 基板] の [FL2]、または [DET 基板] の [L6] の故障が疑わしい
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判別のために [DET 基板] の小さいほうのコネクタを外してみました。
このコネクタを外すと [IF 基板]→[DET 基板] の接続が切り離されます。
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この状態で [バリバリ] 雑音が出ました。
[DET 基板] の [L6] が故障しています。
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[DET 基板] の [L6] の状態チェック
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左の写真は [L6] の実装状態です。
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[C23] [R35] [L6] の辺りがやや白っぽくなっていますが、これは元実装されていた [C23] 電解コンデンサの液漏れ跡です。
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[C23] 交換時に液漏れ箇所を無水アルコールで洗浄したのですが、写真程度の跡は残ってしまいました。
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右の写真は基板から取り外した [L6] コイルです。
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写真からわかるように、コイルの底部に実装されているチタコン×3本のうち、右端の1本が真っ黒になっています。
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マイグレーション発生して絶縁劣化しています。
[C23] と近いので、液漏れガスで汚染されたのかもしれません。
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[DET 基板] の [L6] の修理
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本来は [L6] 交換が正しいのですが、もうメーカでも在庫しておらず、修理するしかないのです。
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左の写真のように [L6] から劣化したチタコンを除去しました。
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この状態で [L6] を基板に戻し、チタコンの代わりに基板の裏側で 68pF セラミックコンデンサを右の写真のように取り付けました。
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動作チェック
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見事! [バリバリ] 雑音が消えました!!!
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まだ [ボソボソ] 雑音は残っています。
リペア (その3):[ボソボソ] 雑音が出る
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原因調査
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ここまでに [DET 基板] は完全に直っているので、要因は [IF 基板] [フロントエンド] のいずれかになります。
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表現に困ってしまうのですが、[バリバリ] 雑音は高音ですが、[ボソボソ] 雑音は低音です。
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[IF 基板] が要因とすると [FL2] フィルタ故障ですが、これは [バリバリ] 雑音系です。
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要因切り分けのため、[フロントエンド]→[IF 基板] の接続を外し、SSG から IF 信号 (10.7MHz) を送ってみました。
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すなわち、[SSG 出力]→[IF 基板] の接続です。
これで1時間監視しましたが、[ボソボソ] 雑音は出ませんでした。
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こうなると、[IF 基板]→[DET 基板]→[MPX 基板] には問題がないことになります。
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[フロントエンド] の故障確定です。
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[フロントエンド] を修理
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通常、フロントエンド故障は [フロントエンド] 交換とします。
しかし、その交換用 [フロントエンド] は既に入手不可です。
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[ボソボソ] 雑音に関連するのは [バリコン軸] [OSC トリマコンデンサ] の接触不良か [OSC 発振回路故障] です。
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[OSC 発振回路故障] については厳重なシールドケース内に空中配線で組み込まれているので、手が出せません。
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[バリコン軸] [OSC トリマコンデンサ] の接触不良については、頑張ればできるかなという程度です。
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フロントエンドのベース (底) ネジを外し、少し持ち上げると黒いケースを外しでき、左の写真のようになります。
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[バリコン軸] の洗浄
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを爪楊枝で丹念に落とします。
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[1] と [2] を何度も何度も繰り返します。
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仕上げに、軸受けに
CRC 5-56
を塗布して防錆処置します。
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[OSC トリマコンデンサ] の洗浄
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右の写真のように OSC 部のシールドケースを開けるとトリマコンデンサにアクセスできます。
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写真の中央部にマイナスネジが見えますが、この部分がトリマコンデンサです。
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このシールドケースを開けるのが一苦労です。
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シールドケースを留めているハンダを何か所も容量の大きいハンダゴテで外すのです。
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少し力わざも必要だったので若干シールドケースが変形しましたが、やむを得ないです。
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[OSC トリマコンデンサ] に
エレクトロニッククリーナ
を吹きかけてからグルグル回して酸化物 (サビ) を除去しました。
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動作チェック
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ダメでした。
[ボソボソ] 雑音が直りません。
修理は諦めるしかないです。
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KT-9900 のジャンク品を探し出し、そこから [フロントエンド] を移植すれば直るはずです。
このサポートはします。