KENWOOD L-01T (3号機) が到着
2023年7月14日、大阪府高槻市の M さんから
KENWOOD L-01T
の修理依頼品が到着しました。
定価16万円
の高級 FM 専用チューナで
パルスカウント検波
です。
この写真は照明 LED 化後です。
程度&動作チェック
-
依頼者のコメント
-
15年くらい前に中古ショップで購入し、それ以来機嫌よく鳴ってくれていました。
音質も気に入っています。
-
最近、ステレオモードで右チャンネルからプチプチノイズとともに、音声にひずみが乗るようになりました。
左チャンネルは正常です。
-
外観
-
製造シリアル番号は [10520308] で、電源コードの製造マーキングより [1980年製造品] とわかりました。
-
底板に KENWOOD サービスのメンテナンスシールが2枚貼ってありました。
-
[1986年9月17日] ・・・ 電源部 Tr 交換
-
[1993年7月20日] ・・・ (特に記事なし)
-
かなり汚れていますが致命的な損傷はないです。
クリーニングでかなりマシになるような気がします。
-
天板の前側中央部が膨らんでいます。
うまく溝に入っていないようです。
取り付け直せば直るでしょう。
-
電源 ON してチェック
-
電源は問題なく入り、[操作スイッチ] [S メータ] [T メータ] は正常に動作し、正常に受信できました。
-
[指針] [STEREO] [MUTING▼] [DIRECT▼] ランプが切れています。
-
その他のランプは全体に薄くなっており、[WORDS] 表示や周波数表示の右側ランプが点灯しない時があります。
-
[同調] ノブを周波数の 高い→低い 方向に回すと 81MHz 付近で指針が動かなくなります。
高速で回すと動きます。
-
電源 ON してからしばらく左右とも正常に音が出ていたのですが、15分くらい経って右の音が歪だらけになりました。
-
カバーを開けてチェック
-
内部の基板にはゴミがかなり堆積していますが、目視で判る劣化部品はないように思います。
リペア (その1):右チャンネルの音が歪だらけになる
-
不具合調査
-
下の回路図はオーディオアンプ最終段です。
右チャンネルは、[Q28] [Q30] によるプッシュプル出力となっています。
-
[Q28] [Q30] に指を当ててみると、[Q28] は熱いですが [Q30] に熱を感じません。
出力 DC バランスが崩れてます。
-
修理依頼者のいう [プチプチノイズ] もこれが原因です。
オーディオ波形の崩れです。
-
原因は [IC15] [Q28] [Q30] のいずれかの故障です。
細かく調べても仕方ないので3つともバサッと交換するのが吉です。
-
部品交換
-
[IC15] [Q28] [Q30] に加えて左チャンネル用の [Q27] [Q29] を一斉交換しました。
基板 |
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
チューナ基板 |
IC15 |
NJM4560D |
NJM4580DD |
NJM4580DD のほうがグレードが上 |
Q27 |
2SC1384 |
2SC2655L-Y |
左チャンネル用 |
Q29 |
2SA684 |
2SA1020L-Y |
Q28 |
2SC1384 |
2SC2655L-Y |
右チャンネル用 |
Q30 |
2SA684 |
2SA1020L-Y |
-
左の写真は交換後で、黄〇で囲んだ部品が新しい部品です。
右の写真は、これまで基板に実装されていた部品です。
-
動作チェック
-
見事!直りました!!!
歪のない綺麗なステレオ音になりました。
リペア (その2):照明用フィラメントランプの完全 LED 化
-
右の写真は従来使われていたフィラメントランプです。
-
フロントパネル照明には円盤型ランプが多数使われていました。
-
指針用照明には黒いコードが付いているランプが使われていました。
-
全てのランプのガラスが黒ずんでおり、これが輝度低下の原因であると共にもう寿命です。
-
ランプの全数交換が必要なレベルで、ランプは23個あるのでかなりの費用がかかります。
-
大金を投資してランプ交換するより、LED 化してしまったほうが良いです。
-
リプレースに使う LED
-
テープ LED は [ダイヤルスケール] [S メータ] [T メータ] [WORDS] 照明に使います。
-
1m あたり高輝度 LED 240個の凄まじい製品です。
-
発色はウォームホワイト (電球色) としました。
-
5mm 砲弾型 LED はセレクタとステレオ表示に使います。
[白色、10000mcd、照射角60度] です。
-
3mm 砲弾型 LED は指針に使います。
[青色、8400mcd、照射角30度] です。
-
従来のランプ表示回路と照明基板
-
従来のランプ表示回路です。
AC/DC 入り混じっているので、このままでは LED 化できません。
-
従来の [照明基板] です。
-
一番長い周波数ダイヤル用散光板が大きく反り曲がっていました。
これが指針に当たって、指針の動きがおかしかったのです。
-
フィラメントランプの熱で経年変化してしましったのです。
ここまで大きく曲がってしまうと元には戻せません。
-
よって、本機は LED 化でしか救えません。
私の処に来て LED 化される運命だったのですね!
-
LED 化した表示回路と LED 化した照明基板
-
LED 化した表示回路です。
全て DC 駆動に変更しました。
-
LED 化した [照明基板] です。
-
テープ LED にした [ダイヤルスケール] [S メータ] [T メータ] [WORDS] 用散光板は除去しました。
-
[セレクタ] [STEREO] 用の散光板はそのまま使いました。
-
[WORDS] 照明の周りにある四角い枠は自作の遮光板です。
-
ボール紙で簡単工作し、黒ラッカー塗装してからボンドで貼り付けました。
サイズは 110(W)×13(H)×10(D) mm です。
-
テープ LED を貼り付ける位置は重要です。
-
LED の中心を基板下から、[ダイヤルスケール] 用 9mm、[S/T メータ] 用 32mm、[WORDS] 用 24mm にします。
-
L-01T はテープ LED 照明化すると幸せになれます!
-
LED 化後はムラのない非常にスッキリとした素晴らしい表示になりました。
-
L-01T が発売された時代には [青色 LED] [高輝度 LED] [高輝度テープ LED] がなかったのです。
技術進化が LED 化を可能にしました。
-
大きく変形した散光板が無くなり、引っかかりを感じていた指針の動きがスムーズになりました。
-
フィラメントランプの時は 8V/0.15A のランプを23個使っていたので、照明だけで実に 28W 電力消費していました。
-
LED 化後の電力消費は 5W くらいです。
発熱はほぼないです。
SDGs に貢献できます。
電気代も安くなります。
-
長い目で見ると、今回の費用は安くなった電気代で回収できます。
リペア (その3):[STEREO] ランプが点滅することがある
-
修理が完了して放送を聴きながらロングラン試験していたら [STEREO] ランプがたまに点滅する現象が確認できました
-
不具合発生時に観察していると、以下の状態になっているようです。
[T メータがじわりじわり+側に動く]→[限界になったところで STEREO ランプ消灯]→[T メータがセンタに戻り STEREO ランプ点灯]
-
[同調] ノブ軸金具を GND に接続し、サーボロックを強制的に OFF した状態では [STEREO] ランプは点灯したままでした。
-
上記の詳細確認結果より、サーボロック回路の [AFC AMP] がおかしいと診立てました。
-
本来 [AFC AMP] はサーボロックを安定させる目的のアンプですが、[AFC AMP] が誤動作してサーボロックを不安定にしているのです。
-
現象をよく観察して論理的に考えることが重要です。
[風が吹けば桶屋が儲かる] 的ロジック推論です。
-
下の回路図は [AFC AMP] です
-
[IC4] HA1457W が故障していると思います。
-
おそらく、8pin (+14V 電源) と 7pin (−入力) がマイグレーションでレアショートしていると思います。
-
部品交換
-
[IC4] [C29] を交換しました。
[C29] は動作を緩やかにする目的の時定数要素で、念のため交換しました。
基板 |
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
チューナ基板 |
IC4 |
HA1457W |
HA1457W |
|
C29 |
10uF/16V (BP) |
10uF/25V (MUSE) (BP) |
念のため交換 |
-
左の写真は交換後で、黄〇で囲んだ部品が新しい部品です。
黒い長細いのと緑色の部品です。
-
右の写真は、これまで基板に実装されていた部品です。
HA1457W の足には真っ黒なマイグレーションが発生しています。
-
動作チェック
-
見事!直りました!!!
[STEREO] ランプが点滅しなくなりました。
-
対策が正しいことを確認するため、実験してみました
-
HA1457W の 7〜8pin を短絡してマイグレーションによるレアショートを再現してみたら、[STEREO] ランプが点滅しました。
-
対策は正しいです!!!
リペア (その4):マイグレーション対策 ・・・ 予防保守
-
マイグレーション
とは金属カビみたいなもので、IC やトランジスタのリード足間をレアショートさせます。
-
発生すると、不定期に雑音発生とか訳のわからない障害が出ます。
最悪回路故障に至ります。
-
マイグレーションは少しずつ成長し、数十年経ってから顕在化します。
-
全ての基板について、IC とトランジスタの足にワニス塗布して将来のマイグレーション発生を予防しました。
-
要は金属部分 (足) が酸化しなければマイグレーションは発生しない訳で、ワニスコーティングで空気に直接触れないようにしたのです。
-
マイグレーションによる障害 (レアショート) が発生していないうちに対策するのが吉です。
-
今回使用したワニスの長期的な試験はできていない (数十年かかる) のですが、少なくともマシにはなったと思います。
リペア (その5):清掃
-
フロントパネル
-
スモークアクリル板に粘着性のゴミ、スイッチに細かいゴミ、[同調] ノブにギトギトの手垢がこびりついていました。
-
大体はプロ仕様クリーナ
リンナイ NEW プロインパクト中性
で綺麗になりました。
電気製品のため、中性であることが重要です。
-
[同調] ノブは汚れ過ぎのため、一旦取り外して無水アルコールで洗浄して綺麗になりました。
-
内部の基板
-
綿状や砂状のゴミがビッシリ付着していました。
-
刷毛・エアブロアで清掃するのですが、部品が実装されているので清掃には限界があり、完全には綺麗になりません。
-
[キタナイ]→[汚れがある] 程度には回復できました。
再調整
-
電源電圧チェッック (VP)
-
実測値は以下のように正常でした。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
電源基板 端子13 |
+14V |
+14.1V |
〇 |
Front End, IF |
電源基板 端子15 |
+16V |
+16.3V |
〇 |
MPX |
電源基板 端子17 |
-16V |
-16.3V |
〇 |
MPX |
電源基板 端子19 |
+12V |
+12.8V |
〇 |
1'st OSC |
-
FM 受信部の調整
-
調整結果
-
フロントエンドのトラッキングが RF/OSC ともにズレていました。
再調整で直りました。
-
MPX の SUB レベルが下がっていましたが、再調整で正常値になりました。
-
ステレオセパレーションが4倍くらい良くなり、以下のようなかなり良い性能に再調整できました。
-
再調整前には [良い音には違いないが少し違う] と感じていましたが、再調整で音に艶が出て聴き惚れる素晴らしい良い音になりました。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
55 |
53 |
dB |
NARROW |
50 |
50 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.050 |
% |
stereo |
0.054 |
% |
NARROW |
mono |
0.28 |
% |
stereo |
0.29 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-83 |
-80 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
+0.01 |
dB |
使ってみました
-
デザイン
-
デザインはとても良いですが、ともかく大きいです。
-
電源を入れるとダイヤル面などが照明でパッと浮き上がります。
-
今回、照明を完全 LED 化したのでスッキリとした色合いになりました。
-
チューニングノブから手を離すと、同調サーボロックがかかります。
-
アンテナ端子に F 端子があるのが、ありがたいです。
-
リアパネルにある [CONTINUOUS DIAL LIGHT] スイッチ
-
[ON] で、ダイヤルスケールとメータ照明が常時点灯します。
-
[OFF] で、ダイヤルスケールとメータ照明がチューニングノブに手を触れた時だけ点灯します。
面白い仕掛けです。
-
感度や音質
-
感度は良好で、高級機らしい安定な受信ができます。
-
音はパルスカウント検波らしいスッキリ感があります。
解像度感のある澄みきった音に聞き惚れます。
低音はよく出ています。
-
NHK FM でクラシック音楽を聴いていると、静寂の中からキラキラ輝く素晴らしい音が飛び出すのを感じます。
S/N が良いです。
-
人の声にもリアルさを感じます。
目の前で話していると錯覚しそうです。
-
素晴らしいチューナです。
ただし、半世紀物ですから新たに入手した場合は多くのリペアが必要になると思います。