Technics ST-G7 (3号機) が到着
2023年3月29日、名古屋市の S さんより
Technics ST-G7
の修理依頼品が到着しました。
パルスカウント検波
で定価73,800円です。
程度&動作チェック
-
修理依頼者のコメント
-
久しぶりに使ってみたら、電源投入直後の周波数表示等がワンテンポ遅れて表示されることがあったりして不安定です。
-
外観
-
製造シリアル番号は [AA4409A038] です。
[純正 AM ループアンテナ] が添付されていました。
-
[フロントパネル] [リアパネル] [天板] [底板] は全て綺麗な逸品です。
-
リアパネルの端子類に少し白っぽいサビが出ていますが、使用には問題ないです。
-
電源 ON にてチェック
-
電源は問題なく入り、各ボタンはそれなりに反応します。
-
FM 受信でき、[STEREO] 表示も出ました。
特に問題はなさそうで、再調整で性能回復すると思います。
-
AM 受信でき、特に問題はなさそうで、再調整で性能回復すると思います。
-
ディスプレイ自体は正常ですが、バックライトパネルにムラがあります。
-
各ボタンに使っているタクトスイッチにチャタリングが発生して劣化しています。
-
本機では、プリセットボタンを短押しで 1〜8、長押しで 9〜16 のプリセットメモリにアクセスします。
-
長押ししようとしても、チャタリングがあるので短押しになって 9〜16 のプリセットメモリにアクセスできないのです。
-
修理依頼者よりの [電源投入直後の周波数表示等がワンテンポ遅れて表示される] は確認できませんでした。
-
カバーを開けてチェック
-
[C920] [C921] 2個の電気二重層コンデンサの周りに僅かに液漏れ跡があります。
これ以外は非常に綺麗です。
-
本機に使っている電気二重層コンデンサは密閉タイプではないので、液漏れしやすいです。
-
使われている IC の製造ロット番号より、本機は [1983年製造品] とわかりました。
リペア
-
タクトスイッチにチャタリングが発生して劣化している
-
タクトスイッチ交換は大仕事
-
タクトスイッチにアクセスするには [フロントパネル分離]→[数多くのネジを外す]→[スイッチ基板分離] と手順が多いです。
-
しかも、タクトスイッチは全部で18個も使われおり、足が4本あるので、4本×18個=72箇所 の取り外し/取り付けとなります。
-
タクトスイッチの種類は多く、分解してスイッチ基板を見るまで、どれが適合するか分からないのも辛いところです。
-
筆者の場合、タクトスイッチの種別ごとに百個単位で在庫しています。
-
ST-G7 の場合は 5mm 角で基板からスイッチトップまで高さ 5.2mm のものが適合しました。
-
頑張って全数交換しました。
当たり前ですが、
チャタリング不具合は直りました!
-
左の写真の状態まで分解しないとタクトスイッチにアクセスできません。
-
右の写真は、[プリセット (8個)] [FM] {AM] ボタンのスイッチ基板です。
-
左の写真は、[rec level] [FM signal] [IF band] [muting] [mode] ボタンのスイッチ基板です。
-
右の写真は、[down] [up] [memory] ボタンのスイッチ基板です。
-
ディスプレイのバックライトパネルにムラがある
-
タクトスイッチ交換作業のついでに LCD の裏側を確認しました。
(右の写真)
-
ムラがある理由がわかりました。
フィルタシートがバックライト (フィラメントランプ) の熱でグニャグニャに変形したためです。
-
これは修理困難です。
LCD が見えない訳ではないので諦めです。
-
[C920] [C921] 2個の電気二重層コンデンサの周りに僅かに液漏れ跡がある
-
3.3F/2.5V の電気二重層コンデンサを2本直列にして、1.65F/5V として使っています。
(左の写真)
-
この直列にした使い方はよくないです。
なぜなら、部品にはバラツキがあり電圧がピッタリ半分ずつ加圧される保証はないのです。
-
ここには 5V の電圧がかかります。
バラツキで必ずどちらかの電気二重層コンデンサには耐圧の 2.5V 以上の過電圧がかかります。
-
しばらく使っていると過電圧で電気二重層コンデンサが劣化または故障します。
そして液漏れに至ります。
-
対策しました!
-
基板に実装されていた電気二重層コンデンサ×2本を取り外し、液漏れ跡を無水アルコールで除去しました。
-
1個で済む 1F/5.5V の電気二重層コンデンサを取り付けました。
(右の写真)
-
1個なので電圧アンバランスは発生せず、耐圧は 5.5V なので安心です。
しかも密閉タイプなので、まず液漏れしません。
-
基板には強力両面テープで貼り付けています。
-
電源投入直後の周波数表示等がワンテンポ遅れて表示される ・・・ 修理依頼者より
-
ずっと使っていましたが現象が出ません。
現象が再現しないと修理は困難です。
-
不具合ではない可能性もあります。
-
本機のディスプレイは LCD のため、電源を入れた時の周囲温度が低いと液晶の反応が遅くなります。
-
長期間 (数か月以上) 電源を入れなかったのであれば、電気二重層コンデンサが完全放電してしまいます。
電気二重層コンデンサにかかる電圧は MCU (CPU) とほぼ同一です。
この状態で電源 ON すると電気二重層コンデンサにある程度充電されるまで MCU が動作できません。
(数秒と思います。)
-
交換した部品の記録
-
右の写真は基板に元付いていた故障した部品です。
-
足が4本ある小さい部品は [タクトスイッチ]×18個です。
-
円筒形の部品は [電気二重層コンデンサ] です。
再調整
-
電圧チェック (VP)
-
以下のように実測値は良好でした。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
Q701-E |
+15.6V |
+15.3V |
〇 |
チューナ |
Q706-E |
+5.6V |
+5.67V |
〇 |
MCU |
Q702-E |
+8.6V |
+8.54V |
〇 |
オーディオ |
Q703-E |
-8.6V |
-8.47V |
〇 |
-
FM/AM 受信部の調整
-
調整結果
-
FM 同調点のズレが大きかったです。
再調整で規格内に入りました。
-
FM フロントエンドの調整ズレが大きかったです。
再調整で感度は2倍に向上しました。
-
ステレオセパレーションがかなり下がっていました。
再調整で良好な性能に戻りました。
-
再調整後の FM 性能値は以下です。
-
IF band : normal 時のセパレーションはかなり良好な数値です。
-
IF band : super narrow 時は自動的に Hi-Blend がかかるので、セパレーションが大きく落ち込みます。
-
できるだけ IF band : normal で使ったほうがよいです。
項目 |
IF band |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
normal |
stereo |
57 |
62 |
dB |
super narrow |
18 |
18 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
normal |
mono |
0.049 |
% |
stereo |
0.049 |
% |
super narrow |
mono |
0.21 |
% |
stereo |
2.3 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
normal |
stereo |
-78 |
-72 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
normal |
mono |
0 |
+0.04 |
dB |
rec level (テスト音) |
normal |
mono |
351.6 |
Hz |
-6.08 |
dB |
-
AM は添付された [純正 AM ループアンテナ] で最高感度になるよう再調整しました。
使ってみました
-
デザイン
-
作りが良く、特にフロントパネルの作りが秀逸です。
-
周波数表示は LCD で、バックライトはフィラメント電球照射です。
-
ステーション・プリセットボタンはプレス成型した無垢の1枚アルミ材です。
-
サイド飾りも一般のプラスチックではなく、分厚いアルミ材です。
-
シーリングパネルドアには分厚いガラス板を使い、高級感を出しています。
-
FM アンテナ入力は F 端子なので、雑音電波が混入しないです。
-
奥行きが筐体部で 26cm 程度と短く、設置が楽です。
-
電源コードはメガネ型で取り外しできます。
-
S メータは dBf 表示です。
ただし、あまり精度は高くないです。
-
感度&音質
-
FM は感度が高く、高音質です。
-
パルスカウント検波らしい
乾いた音
です。
歪感が少ない素晴らしい音
です。
-
しかし、ハッとする音かというとそうでもなく、個性が抑えられたモニタ的な音です。
-
AM は感度が高いですが音質は普通レベルです。