TRIO KT-1000 (3号機) が到着
2023年1月8日、さいたま市の Y さんより
TRIO KT-1000
の修理依頼品が届きました。
Y さんの自家配送でした。
この写真は照明を全て LED 化後です。
爽やかなホワイト基調のダイヤルとブルーの指針とのマッチングがたまらくイイです。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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大手フリマサービスから購入したのですが、ステレオインジケータとサーボロックインジケータが点灯しない状態です。
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ステレオインジケータの状況
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ただ点灯しないだけならば、麦球の不良だと思うのですが、どうもモノラルのような感じがします。
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サーボロックインジケータの状況
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チューニングメータの指針を少しずらした状態で同調ノブから手を離すと、メータの指針が0で安定します。
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従って、(サーボロックインジケータが点灯しませんが) サーボロック自体は機能していると思われます。
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出てくる音については、歪み感もノイズ感もありません。
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外観
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製造シリアル番号は [20310970] で、電源コードの製造マーキングより [1981年製造品] とわかりました。
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フロントパネルの上側で天板への折り返しエッジのポチッとしたキズはありますが、綺麗なほうです。
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ダイヤルスケール内にほんの少しゴミが見えます。
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リアパネルは綺麗です。
端子類に薄いサビはありますが、赤サビではないので問題はないです。
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天板には目立つスレや汚れがあります。
天板をリアパネルで留めるネジ×3本のうち2本が欠品しています。
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側板に線キズはありますが、醜くはありません。
底板は綺麗なほうです。
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電源 ON してチェック
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FM 受信で少し周波数ズレがあります。
80MHz の放送が 79.8MHz で受信されます。
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[SERVO LOCK] ランプが点灯しません。
ただし、サーボロック動作はしているようです。
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[STEREO] ランプが点灯せず、音もモノラルでしか出ていません。
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音はステレオではないのですが、それなりに良音が出ています。
時報の音に歪はありません。
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[LOCK] スイッチ ON では T メータの振れかたがぎこちないです。
タッチセンサの感度が低下しています。
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[FM REC CAL] スイッチを ON にしてもテスト音が出ません。
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AM は周波数ズレしていますが、正常に受信できます。
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カバーを開けてチェック
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使用 IC のロット番号よりも [1981年製造品] とわかりました。
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ややゴミが堆積していますが、基板などは綺麗な状態です。
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バリコン軸のアース接触部分に青緑錆が出ています。
周波数ズレの要因の1つです。
リペア
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[SERVO LOCK] ランプが点灯しないが、サーボロック動作はしている
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ランプ切れでした。
本機は42年物ビンテージです。
もうどのランプも寿命は近いと思います。
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そこで、全ての [フィラメントランプ]→[LED] に交換することにしました。
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照明の LED 化
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目的は寿命の短いフィラメントランプを寿命の長い LED に交換することです。
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フィラメントランプは [ダイヤル] に2個、[ダイヤル指針] に1個、[STEREO] [SERVO LOCK] ランプ用に2個使われています。
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どのランプ交換もものすごい労力がかかります。
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フロントパネルを完全にバラバラにしないとランプにアクセスできないのです。
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ダイヤルの糸掛け機構も一旦外す必要があり、手間と時間がかかります。
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寿命のある部品が簡単に交換できない → ここの作りは悪い です。
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[ダイヤル] [ダイヤル指針] [STEREO] ランプの LED 化
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LED 化の回路図は以下です。
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[ダイヤル] [ダイヤル指針] の LED は直流駆動する必要があるので、チューナ基板の -20V から電源を取りました。
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[ダイヤル] 照明を白色超高輝度 LED にしたので、[ダイヤル指針] が白色では見辛くなります。
そこで青色にしました。
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[STEREO] ランプは元々 DC 駆動だったので、LED 化では以下の回路図のようにフィラメントランプを置き換えました。
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これらの配線を高級な耐熱電線に張り替えています。
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[SERVO LOCK] ランプの LED 化
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フィラメントランプを単純に LED 化すると、SERVO ON/OFF に関わらず LED が点灯し放しになります。
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原因は Q32 駆動電圧が +8V に対し、Q44 の駆動電圧が +9V なので Q44 が少し ON してしまうからです。
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フィラメントランプの時は少しの電流が流れるだけであれば光らないので問題なかったのです。(プレヒート状態)
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LED は 1mA 以下の小電流でも光ってしまうのです。
ある意味、感度が良い。
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根本的には設計がよくないと思います。
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対策として [基板の1箇所パターンカット] [トランジスタ交換] [抵抗1本追加] を行いました。
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+8V 電圧はそう電流が取れない回路になっていましたが、LED に流す電流は 6mA と小さいので問題ないでしょう。
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配線を高級な耐熱電線に張り替えています。
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全部の LED 化を終わって
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まずは疲れました。
部品交換時のメンテナンス性が悪過ぎです。
設計がよくないです。
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各 LED に流している電流が異なりますが、これは見た目の明るさを揃えたからです。
人間の目は光の波長に対する感度が均一ではない。
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今まで [SERVO LOCK] ランプが切れていたので気付かなかった不具合が見つかりました。
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[LOCK/AUTO BLEND/MUTING] スイッチを OFF にしてもサーボオフにならないことがあります。
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押し続けている間だけオフになります。
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記録写真
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LED 化後は明るいスッキリとした綺麗な表示になりました。
まるで新製品みたい!
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交換前に実装されていた部品です。
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左から [ダイヤル指針ランプ] [ダイヤル照明ランプ×2個] [STEREO ランプ] [SERVO LOCK ランプ] [2SA850] です。
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[LOCK/AUTO BLEND/MUTING] スイッチを OFF にしてもサーボオフにならないことがある
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原因は [LOCK/AUTO BLEND/MUTING] スイッチの接触不良です。
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スイッチの隙間から
エレクトロニッククリーナ
を吹きかけ洗浄して直りました。
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ついでに、この他のスイッチおよびオーディオ出力ボリュームも洗浄しました。
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エレクトロニッククリーナ
は接点復活剤のようにネトネトになることがなく、速乾性で跡が残りません。
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低周波にも高周波にも使えます。
一家に1本あると便利です。
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[STEREO] ランプが点灯せず、音もモノラルでしか出ていない
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ランプ切れではなく、MPX VCO の調整ズレが原因でした。
[VR10] 再調整で直りました。
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タッチセンサの感度が低下している
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タッツセンサ回路の調整ズレが原因でした。
[L7] 再調整で直りました。
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[FM REC CAL] スイッチを ON にしてもテスト音が出ない
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原因は REC CAL 回路の調整ズレでした。
[VR2] 再調整で直りました。
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バリコン軸の接触不良回復
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本機は42年物ビンテージ (2023年現在) です。
バリコン軸の接触回復は必須です。
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを爪楊枝で丹念に落とします。
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[1] と [2] を何度も何度も繰り返します。
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仕上げに、軸受けに コンタクトグリース を塗布して防錆処置します。
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大量の緑青サビが除去できました。
結構手間がかかりましたが、以上で回復しました。
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ダイヤルスケール内にほんの少しゴミがある
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照明を LED 化する時にフロントパネルを分解したので、この時に一緒に作業しました。
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[最前面の保護ガラス] [内部の周波数目盛板] を中性洗剤で水洗して綺麗になりました。
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FM 受信で少し周波数ズレがある
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上記の [1]〜[6] の修理後に OSC トラッキング調整して若干マシになりました。
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バリコンの精度に依存するので、完全にゼロにはできません。
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天板をリアパネルで留めるネジ×3本のうち2本が欠品している
再調整
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電圧チェック (VP)
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測定結果は以下です。
良好です。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
R260 (100Ω) 左側 |
+14V |
+13.5V |
〇 |
R261 (100Ω) 左側 |
-14V |
-13.6V |
〇 |
D25 左側 |
+9V |
+8.65V |
〇 |
D24 左側 |
-9V |
-8.95V |
〇 |
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調整結果
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TRIO KT-1000 (1号機)
に記載の手順で調整しました。
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パルスカウント検波部でややズレがありました。
[FM REC CAL] [FM MPX VCO] で大きなズレがありました。
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全体的に良好な数値です。
項目 |
IF BAND |
MONO/STEREO |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
STEREO |
58 |
56 |
dB |
NARROW |
53 |
53 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
MONO |
0.009 |
% |
STEREO |
0.009 |
% |
NARROW |
MONO |
0.2 |
% |
STEREO |
0.4 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
STEREO |
-83 |
-79 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
MONO |
0 |
-0.02 |
dB |
FM REC CAL 信号 |
WIDE |
MONO |
398.4 |
Hz |
-5.5 |
-5.4 |
dB |
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放送電波の周波数と、指針が指す周波数は以下となりました。
90MHz 以外は ±0.1MHz 以内なのでスペック内と思います。
電波の周波数 (MHz) |
76 |
77 |
78 |
79 |
80 |
81 |
82 |
83 |
84 |
85 |
86 |
87 |
88 |
89 |
90 |
指針の周波数 (MHz) |
75.99 |
76.98 |
77.98 |
78.98 |
80.00 |
81.00 |
82.00 |
83.00 |
84.01 |
85.01 |
86.06 |
87.08 |
88.10 |
89.10 |
90.14 |
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AM は、純正 AM ループアンテナの添付がなかったので、IF 調整だけ実施しました。
使ってみました
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今回の修理は疲れました
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照明 LED 化作業でフロントパネルをバラバラに分解する必要があったので非常に大変でした。
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終わって眺めると非常に綺麗でウットリします。
癒されます。
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あちこち調整ズレしていたので、総合特性を確保するのに時間がかかりました。
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何とか全て直せてよかったです。
新品時の性能に復活したと思います。
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KT-1000 のデザインはかなり良いと思います。
プラスチックの部分にもっと高級感があれば秀逸になったと思います。
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感度や音質
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FM は TRIO らしい高解像度でカチッとした高音質です。
感度も良いです。
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やはり、パルスカウント検波の音はイイと思います。
独特です。
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AM は高感度で S/N が高いです。
WIDE 時は高音の伸びた良い音が出ます。