TRIO KT-1000

TRIO KT-1000 をゲット！

2009年8月8日、 HARD-OFF 越谷草加 BP 店で TRIO KT-1000 のジャンク品を1,050円で入手しました。 純正 AM ループアンテナ付です ・・・ ワンオーナーの可能性が高いです。

プライスカードには「FM 受信できましたが、感度がかなり悪いです。」と書いてありました。 こういう物ほどスリルがあって面白いので、ついつい手を出してしまいます ・・・ 病気か？

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程度＆動作チェック

1. 外観
   
   
   • 奇跡的にフロントパネルにキズはありません
     
     
   • ダイヤルスケール部のガラスの左下に僅かな割れがあります。 ごく僅かなので気が付かないと思います。
     
     
   • 天板と側板に細かいキズがあります。
     
     
   • 側板を留めているネジにサビが出ています。
     
     
2. 入手した状態のまま電源 ON してチェックしました
   
   
   • ランプ切れはありません。
     
     
   • FM は MUTING OFF にしないと受信できません。
     
     
     • T メータが右に振り切れたままです。
       
       
     • 周波数ズレが -2MHz もある。 これじゃ感度も落ちるわ！
       
       
     • 出てくる音は歪だらけで、とてもパルスカウント検波と思えません。
       
       
   • AM 受信は全く問題ありません。 周波数ズレもありません。
     
     

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カバーを開けてみました

1. 基板の作りは非常に良いです。 写真をクリックすると拡大写真を表示できます。
   
   
   • アナログチューナーと言っても最後期の製品なので、使用している IC や回路はシンセサイザーチューナーと変わりません。
     
     
   • バリコンは大きくて立派です。 FM 5連＋AM 3連バリコンです。
     
     
   • 抵抗など少し大き目の部品を使っており、点検用底板があります。 このため、メンテナンスが楽です。
     
     
   • IC を使用して合理化が図られています。
     
     

     メーカ	IC	機能
     FUJITSU	MB84002B	Dual 4-Input NOR Gate (4002B と同じ)
     	MB84013B	Dual D Flip-Flop with Set/Reset Capability (4013B と同じ)
     	MB84071B	Quad 2-Input OR Gate (4071B と同じ)
     	MB84066B	Quad Analog Switch/Multiplexer (4066B と同じ)
     JRC	NJM4560DN	Dual Operational Amplifiers
     HITACHI	HA11223W	PLL FM Stereo Demodulator with Pilot Cancel
     NEC	uPC4557C	Dual High-performance Operational Amplifiers
     SANYO	LA1245	AM Electronic Tuner
     TRIO-KENWOOD	TR4011	Pulse Count Detector
     	TR7020	Quadrature Detector & IF Down Convert

     
     
   • 使用 IC のロット番号より、この KT-1000 は1982年製と判明しました。 電源ケーブルの製造マーキングも1982年でした。
     
     
2. FM フロントエンド
   
   
   • 5連バリコンで、以下の構成です。 KT-1100 と全く同じフロントエンドです。
     
     (アンテナ)→[同調]→[Dual Gate FET]→[同調]→[同調]→[Mxer (Dual Gate FET)]←[OSC BUffer 同調]←[OSC 同調 (TR)]
     
     
   • RF 系は2点トラッキング調整できますが、空芯コイルなので調整は難しいです。
     
     
   • OSC はトリマコンデンサによる1点トラッキングです。 コイルは高周波接着剤でしっかり固められているので調整不可能です。
     
     
3. FM IF 部
   
   
   • WIDE 時
     
     
     (フロントエンド IFT)→[UP-CF]→[IFT]→[TR]→[IFT]→[uPC1163H]→ [WIDE GAIN VR] →[uPC1163H]→[UP-CF]→[TR7020]
     
     
   • NARROW 時
     
     
     (フロントエンド IFT)→[UP-CF]→[IFT]→[TR]→[IFT]→[uPC1163H]→ [CF]→[CF] →[uPC1163H]→[UP-CF]→[TR7020]
     
     
4. FM パルスカウント検波部
   
   
   • 第3世代パルスカウント検波 の構成です。
     
     
   • [TR7020] のクォードラチュア検波を使って S メータと T メータを駆動し、同時に IF 10.7MHz → 1.96MHz に周波数変換します。
     
     
   • [TR4011] でパルスカウント検波します。
     
     
5. MPX 部
   
   
   • [HA11223W] を贅沢に2個使った Sample & Hold PLL MPX です
     
     
   • IC12 の [HA11223W] は MPX スイッチング信号作成だけに使っています。
     
     
   • IC11 の [HA11223W] と周辺 IC で Sample & Hold PLL MPX 回路を構成しています。
     
     
6. AM 部
   
   
   • フロントエンドは3連バリコンで、高感度が期待できます。
     
     
   • [LA1245] に RF 1段追加した構成です。
     
     

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リペア

1. 周波数ズレが -2MHz もある
   
   
   • SSG 出力を 90dB にして強力電波を送り込んでみると -2MHz くらいズレたところで受信できました。 故障部位はフロントエンドと断定できました。
     
     
   • 更に調査すると、FM フロントエンド OSC 部のトリマーコンデンサが故障して、回しても 0PF のままと判明しました。
     
     
   • トリマーコンデンサ (12PF) を交換するためには、FM フロントエンドユニットをメイン基板から一旦取り外す必要があります。 ところが構造的に大仕事になりそうです。 作業でメイン基板を痛める心配もあります。
     
     
   • トリマーコンデンサ交換は諦め、代わりに写真のように別のトリマーコンデンサをバリコンの活栓側とグランドに取り付けました。 トリマーコンデンサにはホット側とコールド側があるので、コールド側が GND になるようにします。
     
     
2. T メータが右に振り切れたまま
   
   
   • 同調点を検出するクォードラチュア検波回路におけるディスクリコイル (L4) の容量抜けが原因でした。
     
     
   • L4 の同調回路にパラに温度補償セラミックコンデンサ 8PF を追加して、同調点検出ができるようになりました。 写真の青マークのコンデンサです。
     
     
3. 出てくる音は歪だらけ
   
   
   • パルスカウント検波の前に 10.7MHz IF 周波数をダウンコンバートして 1.96MHz にしますが、この周波数を周波数カウンタで計測してみると 5MHz もありました。 パルスカウント検波は多少ダウンコンバート周波数がズレても正常に動作しますが、こんなにズレてはダメです。 歪だらけになるはずです。
     
     
   • 原因はダウンコンバート用ローカル OSC 同調コイル (L6) の容量抜けでした。
     
     
   • L6 の同調回路にパラに温度補償セラミックコンデンサ 18PF を追加して、1.96MHz が出るようになりました。 写真の赤マークのコンデンサです。
     
     
4. 側板を留めているネジにサビが出ている
   
   
   • このネジはタップネジなので、同じものの入手は難しいです。 そこで、ネジの頭の部分のサビをサンドペーパーで落とし、黒の艶消しラッカースプレーで塗装しました。
     
     
   • ネジの色がシルバーから黒に変わりますが、サビだらけのネジを見るよりマシです。 違和感はないです。 誤魔化し術ですが効果絶大です。
     
     
5. 全体の清掃
   
   
   • 全体を無水アルコール、ZIPPO オイル、OA クリーナを駆使して丹念にクリーニングしました。
     
     

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調整

写真の FM/AM 標準信号発生器 Panasonic VP-8175A (以下 SSG)、 FM Stereo 信号発生器 MEGURO MSG-2170、 周波数カウンタ ADVANTEST TR5822 を使って調整します。 10年も経つとコイルやトリマはズレます。

　　

1. 電圧チェックポイント (VP)
   
   

   VP	標準値	実測値	判定
   R260 (100Ω) 左側	+14V	+13.4V	〇
   R261 (100Ω) 左側	-14V	-13.3V	〇
   D25 左側	+9V	+9.07V	〇
   D24 左側	-9V	-9.13V	〇

   
   
2. FM 受信部の調整
   
   

   手順	SSG出力	KT-1000 の設定	調整箇所	TP 及び調整値	備考
   1	-	SELECTOR : FM FM REC CAL : OFF MUTING : OFF FM RF SEL : NORMAL	-	-
   2	83MHz 10dB 前後 mono 1kHz	83MHz 付近で受信	-	オシロスコープで オーディオ出力波形を観測し、 サイン波ピーク上下のノイズ成分が 同じレベルになるよう指針を合わせる	同調点調整
   3	83MHz 90dB mono 1kHz		L4	T メータ = センタ
   4		指針を 83MHz に 合わせる	[フロントエンド] OSC トリマ		OSC トラッキング調整 ダイヤルと指針を合わせる のが目的
   5	83MHz 30dB mono 1kHz	83MHz 受信 IF BAND : NARROW	[フロントエンド] RF トリマ×3 OSC Buffer トリマ	S メータ = 最大	RF トラッキング調整
   6			[フロントエンド] IFT		IF 調整
   			L3
   7	83MHz 40dB mono 1kHz		-	S メータ = 記録	WIDE ゲイン調整
   8		83MHz 受信 IF BAND : WIDE	VR1	S メータ = 手順7と同一
   9	83MHz 90dB 無変調	83MHz 受信 IF BAND : NARROW	L6	IC8 (TR4011) 1pin 周波数 = 1.96MHz 周波数カウンタで測定	パルス検波調整
   10	83MHz 90dB mono 400Hz	83MHz 受信 IF BAND : WIDE	-	オーディオ出力 = レベル記録
   11		FM REC CAL : ON	VR2	オーディオ出力 = 手順10の1/2	FM REC CAL 調整
   12	-	SELECTOR : FM FM REC CAL : OFF MUTING : ON FM RF SEL : NORMAL	-	-
   13	83MHz 90dB stereo 1kHz L+R	83MHz 受信 IF BAND : WIDE	[フロントエンド] IFT	オーディオ出力 = 高調波歪率最小	IF 歪補正
   			L3
   14			VR10	以下の [VCO 調整手順] を参照	VCO 調整
   15			VR11 L17	オーディオ出力 = 19kHz 成分最小	パイロットキャンセル調整
   16	83MHz 90dB stereo 1kHz R		VR6	L ch. オーディオ出力 = 最小	WIDE セパレーション調整
   17	83MHz 90dB stereo 1kHz L		VR5	R ch. オーディオ出力 = 最小
   18	83MHz 90dB stereo 1kHz R/L	83MHz 受信 IF BAND : NARROW	VR7	L/R ch. オーディオ出力 = 最小	NARROW セパレーション調整

   
   
   • VCO 調整手順
     
     

     手順	備考
     1	VR10 を反時計方向に回し切る
     2	VR10 を徐々に時計方向に回し、ディスプレイの [stereo] 表示が点灯した位置を記録する
     3	VR10 を時計方向に回し切る
     4	VR10 を徐々に反時計方向に回し、ディスプレイの [stereo] 表示が点灯する位置を記録する
     5	VR10 を [手順2] と [手順4] の中間に設定する

     
     
3. AM 受信部の調整
   
   

   手順	SSG出力	KT-1000 の設定	調整箇所	TP 及び調整値	備考
   1	-	SELECTOR : AM IF BAND : NARROW	-	-
   2	600kHz 60dB	600kHz 受信	L12	S メータ = 最大	OSC トラッキング調整
   3	1400kHz 60dB	1400kHz 受信	OSC トリマ
   4	手順2と3を数回繰り返す
   5	600kHz 40dB	600kHz 受信	L11 L13	S メータ = 最大	RF トラッキング調整
   6	1400kHz 40dB	1400kHz 受信	RF トリマ×2
   7	手順5と6を数回繰り返す
   8	1000kHz 60dB	1000kHz 受信	VR12	T メータ = センタ	同調点調整
   9			VR3	S メータ = 4.5	S メータ調整

   
   
4. 調整結果
   
   
   • FM はあちこちズレまくっていました。
     
     
   • FM ステレオセパレーションは 以下となりました。 良好な数値です。
     
     

     項目	IF BAND	L	R	単位
     ステレオセパレーション (1kHz)	WIDE	65	67	dB
     	NARROW	53	51	dB
     パイロット信号キャリアリーク	WIDE	-69	-70	dB
     オーディオ出力レベル偏差 (MONO)		0	-0.28	dB
     FM REC CAL 信号		375.0		Hz
     		-6.0	-5.9	dB

     
     

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使ってみました

1. デザインは良いのでが、プラスチック筐体がプアさを醸し出しています
   
   
   • リアパネルと天板は鉄板ですが、それ以外はプラスチックというプアな作りに驚きました。
     
     
   • 底板もプラスチックです ・・・ しかも脚も一体成型で作られています。 質感というものはほぼゼロです。
     
     
   • 以下の2点だけは素晴らしいです
     
     
     • ダイヤルスケール部には本物の強化ガラスが使われています。
       
       
     • チューニングノブは輝きのあるスモークアルマイト処理がされており、直径 41mm の無垢アルミです。
       
       
   • ダイヤルの動きは適度に重く、スムーズです。
     
     
   • ダイヤルスケール部全体がイルミネーション照明されており綺麗です。 ダイヤル指針はオレンジ色照明です。
     
     
   • S メータと T メータはダイヤルスケールに一体化されており、デザイン性に優れています。
     
     
   • 以上のようにデザインは優れているのですが、プラスチック筐体のプアさが残念です。
     
     
2. 機能関連
   
   
   • メータの操作感が良いです
     
     
     • チューニングノブがタッチセンサーになっており、チューニングノブを手で摘んでいる時はチューニングサーボ OFF で、手を離すと ON になって最適同調点に T メータが引き込まれます。 この動作スピードが極めて速く軽快です。 サーボの精度も高いようです。
       
       
     • AM 受信でも T メータが有効です。
       
       
   • [FM REC CAL] スイッチを ON にするとテストトーンが流れ、録音機のレベル合わせができます。
     
     
   • [FM/AM IF BAND] スイッチで「WIDE/NARROW」に切換できます。 AM 受信時も有効です。
     
     
   • [LOCK/AUTO BLEND/MUTING] スイッチで「LOCK ON/OFF」「MUTE ON/OFF」「AUTO STEREO (AUTO BLEND)/MONO」を同時に切換えます。
     
     
   • [FM RF SEL] スイッチで「NORMAL/DIRECT」に切換できます。
     
     
   • [SELECTOR] スイッチで「FM/AM」バンド切換します。
     
     
   • FM アンテナ入力は F 端子だけなので、雑音電波が混入しないです。
     
     
3. 感度や音質
   
   
   • FM は TRIO らしい高解像度でカチッとした高音質です。 感度も良いです。
     
     
   • AM は高感度で S/N が高いです。 遠距離 AM 受信ファンにもお奨めできます。 WIDE 時はビックリするほど高音の伸びた良い音が出ます。
     
     
   • 高性能・高音質でお奨めできるチューナーです。 私の評価は ◎ です。 質感も重視される方にはお奨めしません。
     
     

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仕様ほか

1. ドキュメント
   
   
   • KT-1000 取扱説明書
     
     
   • KT-1000 Service Manual ・・・ 輸出版
     
     
2. 仕様
   
   

   FM チューナー部
   受信周波数範囲	76〜90MHz
   アンテナインピーダンス	75Ω不平衡
   感度 (75Ω)	Normal : 0.9uV/10.3dBf Direct : 4.0uV/23.3dBf
   S/N 比 50dB 感度 (75Ω)	Normal mono : 1.8uV/16.4dBf Normal stereo : 8.0uV/29.3dBf Direct mono : 20uV/37.3dBf Direct stereo : 83uV/49.5dBf
   高調波歪率 (100％ 変調)	WIDE mono : 0.03%(100Hz), 0.03%(1kHz), 0.05%(6kHz), 0.04%(15kHz), 0.08%(50Hz〜10kHz) WIDE stereo : 0.04%(100Hz), 0.04%(1kHz), 0.06%(6kHz), 0.4%(15kHz), 0.12%(50Hz〜10kHz) NARROW mono : 0.04%(100Hz), 0.15%(1kHz), 0.3%(6kHz), 0.7%(15kHz), 0.3%(50Hz〜10kHz) NARROW stereo : 0.3%(100Hz), 0.3%(1kHz), 0.3%(6kHz), 1.0%(15kHz), 0.6%(50Hz〜10kHz)
   S/N 比 (100% 変調, 1mV 入力)	mono : 90dB stereo : 85dB
   キャプチャーレシオ	WIDE : 0.8dB NARROW : 2.0dB
   実効選択度	WIDE : 45dB NARROW : 65dB (±300kHz)
   ステレオセパレーション	WIDE : 60dB(1kHz), 47dB(50Hz〜10kHz), 40dB(15kHz) NARROW : 50dB(1kHz), 35dB(50Hz〜10kHz)
   周波数特性	15Hz〜15kHz ±0.5dB
   イメージ妨害比 (84MHz)	90dB
   IF 妨害比 (84MHz)	110dB
   スプリアス妨害比 (84MHz)	120dB
   AM 抑圧比	70dB
   サブキャリア抑圧比	73dB
   AM チューナー部
   受信周波数範囲	520〜1650kHz
   感度	10uV/m (IHF) 200uV/m (ループアンテナ)
   S/N 比 (30% 変調, 1mV 入力)	52dB
   高調波歪率 (1000kHz)	0.2%
   選択度 (IHF)	WIDE : 30dB NARROW : 50dB
   総合
   出力/インピーダンス	FM (1kHz, 100%変調) : 0.75V/2.2kΩ(固定), 1.5V/2.2kΩ(可変) AM (400Hz, 30%変調) : 0.25V/2.2kΩ(固定), 0.5V/2.2kΩ(可変)
   電源電圧	AC100V, 50/60Hz
   定格消費電力（電気用品取締法）	20W
   外形寸法	440(W)×123(H)×388(D)mm
   重量	6.5kg
   その他
   発売時期	1980年
   定価	69,800円

   
   

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