Victor FX-711 (4号機) が到着
2022年6月1日、岡山市の N さんから
Victor FX-711
の修理&再調整依頼品が到着しました。
写真は修理完了後です。
非常に綺麗な逸品です。
しかし、動作しないらしい ・・・ さてさて
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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ヤフオクで今年5月5日に落札した Victor FX-711 です。
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受信できず音が出ないです。
部品取りに
と書いてあったので覚悟はしてましたが。
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最初、アンテナのせいかと思って電気屋さんに来てもらったのですが、アンテナではないようです。
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カスタマセンタに連絡すると、
診てもよいですが、古い製品なのでもう部品は無く、部品の交換となると無理
と言われました。
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できれば修理お願いしたいです。
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外観
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製造シリアル番号は [16303569] です。
電源コードの製造マーキングより1988年製と判りました。
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全体にとても綺麗です。
天板にややスレがあるくらいで、その他にはキズやスレがありません。
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34年物ビンテージ
(2022年時点) ですが、奇跡的な良好外観なので修理しないと勿体無いです。
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電源 ON してチェック
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電源は問題なく ON できました。
各種ボタンは正常に動作します。
FL 表示管の輝度は新品同様です。
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FM 受信
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電源 ON した時点では全く受信できませんでした。
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しばらく通電したままにしておいたら、徐々にレベル表示が上がって 38dB になり、音が出ました。
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この時、周波数ズレがあり 80.0MHz の放送が 79.9MHz で STEREO になりました。
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レベル表示が上がっていく過程で、大きなガサガサ雑音が聴こえました。
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更に通電したままにしておいたら、またレベル表示が 0dB になって受信不可になりました。
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AM 受信
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カバーを開けてチェック
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基板は非常に綺麗です。
内部をいじられた形跡はありません。
リペア
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FM 受信できず音が出ない
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FM OSC トリマコンデンサを軽く叩くと、受信できたりできなかったりの現象が出ます。
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回してみると完全に受信できない位置があります。
トリマコンデンサの完全故障です。
これが原因です。
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大きなガサガサ雑音が聴こえたのも、これが原因です。
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同じトリマコンデンサは高周波増幅段にも4個使われており、これらにも不具合出ていました。
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10PF トリマコンデンサ×5個に全数交換して直りました。
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FM 受信で周波数ズレしている
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同調点検出用の [T206] の経年変化によるズレが原因です。
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[T206] を仮調整して直りました。
最終調整は次項の再調整で行います。
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予防交換
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AM フロントエンドにも FM フロントエンドと同じシリーズのトリマコンデンサが使われているので、予防交換しました。
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音質向上を目指して、オーディオ信号が通過する [電解コンデンサ]→[積層セラミックコンデンサ] に交換しました。
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電源基板に搭載されている電解コンデンサを予防交換しました。
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半田クラック対策
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本機はリアパネルの端子類のリードが直接基板に半田付けされており、ここで半田クラックが発生しやすいです。
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この部分を補修半田付けしました。
34年物ビンテージですから、必須の作業です。
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交換した部品の記録
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特に [C226] [C431] [C432] のオーディオ信号が通過するコンデンサ交換がお奨めです。
チト値段が高いのが難点
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電解コンデンサはオーディオ用を使っても周波数特性は 100kHz が上限です。
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積層セラミックコンデンサは最低でも 100MHz あり、ESR も電解コンデンサよりはるかに低いです。
音質向上します。
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しかも、積層セラミックコンデンサは温度特性が 30ppm/℃ と非常に安定です。
無極性です。
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下の写真で黄色〇で囲った部品が積層セラミックコンデンサです。
ブルーで高性能そうでしょ。
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
交換理由 |
備考 |
TC101 |
TC10PF |
TC10PF |
故障交換 |
FM フロントエンド |
TC102 |
TC103 |
TC104 |
TC105 |
TC301 |
TC20PF |
TC20PF |
予防交換 |
AM フロントエンド |
TC302 |
C226 |
22uF/50V |
22uF/50V 積層セラミックコンデンサ |
音質向上 |
検波出力 |
C431 |
4.7uF/50V |
4.7uF/50V 積層セラミックコンデンサ |
オーディオ出力 |
C432 |
C807 |
2200uF/35V |
2200uF/35V (105℃) |
予防交換 |
電源基板 |
C809 |
2200uF/16V |
3300uF/16V (105℃) |
C811 |
22uF/50V |
22uF/50V |
C814 |
470uF/16V |
470uF/16V |
C815 |
100uF/50V |
100uF/50V |
再調整
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電圧チェック
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以下のように全て良好です。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
Q801-E |
+30V |
+28.4V |
〇 |
VT 電源 |
Q803-E |
+12V |
+11.8V |
〇 |
オーディオ電源 |
Q808-E |
-12V |
-12.7V |
〇 |
オーディオ電源 |
Q805-E |
+5V |
+5.04V |
〇 |
ロジック電源 |
J705-3pin |
+5.6V |
+5.66V |
〇 |
MCU 電源 |
J705-5pin |
-35V |
-34.8V |
〇 |
FL 電源 |
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調整結果
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FX-711 (2号機)
に記載の手順で調整しました。
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FM ステレオセパレーションなどは以下です。
ものすごく良い性能です。
項目 |
IF BAND |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション |
WIDE |
68 |
66 |
dB |
NARROW |
29 |
28 |
dB |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
-53 |
-53 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 (MONO) |
0 |
+0.12 |
dB |
REC CAL |
409.1 |
Hz |
-6.8 |
-6.8 |
dB |
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FM 受信での高調波歪率は以下です。
ものすごく良い性能です。(1kHz)
IF BAND |
mono |
stereo |
WIDE |
0.04% |
0.05% |
NARROW |
0.12% |
0.14% |
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AM はループアンテナが添付されなかったので、手持ちのループアンテナで調整しました。
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AM はループアンテナも同調回路の一部となっており、ペアで調整する必要があります。
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このため、修理依頼者のループアンテナでは最高性能が出ないと思います。
使ってみました
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FX-711 は Victor 最頂点のチューナです
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5連バリキャップで高周波系の性能が良く、しかも音が良いです。
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SONY ST-S333ESX シリーズを越えているかもしれない。
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FM 受信
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感度が良く、受信レベルが dB で表示でき、しかも正確です。
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聴いた瞬間に高音質と判る良い音
、素敵です。
聴き惚れます。
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PLL 検波らしい、スッキリした解像度感のある音です。
細かい音が綺麗に出る繊細な音です。
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AM 受信
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感度はかなり高く、S/N も良いです。
音質は AM としては普通レベルです。