Victor FX-711 (2号機)

Victor FX-711 (2号機) をゲット!

2009年12月12日、 Victor FX-711 の動作不良品を YAMAHA CT-800 の修理のお駄賃にいただきました。

この写真は入手直後のもので、我が家で一番電波の強い 80.0MHz (FM Tokyo) しか受信できませんでした。 シグナルレベルも異様に低く表示されました。

さてさて、直るかな???



程度&動作チェック

  1. 寄贈者よりのコメント

  2. 外観

  3. 電源 ON してチェック



カバーを開けてみました

  1. 基板の作りは良いです。 部品が整然と並んでいます。 写真をクリックすると拡大写真を表示できます。

  2. FM フロントエンド

  3. FM IF 部

  4. FM 検波部

  5. FM MPX 部

  6. AM 受信部

  7. これまでに説明した全体像が判るブロック図を以下に示します。 素晴らしい回路構成であることが判ります。





リペア

  1. ガサゴソ雑音が出る

    1. チェック開始直後はガサゴソ雑音が出ましたが、その後、現象が出にくくなりました。 しかし、数時間程度の間隔で短時間再発します。

      • 発生時に雑音は真中に定位しますので、L/R 共通部での障害です。

      • 再発時に [REC CAL] に切り換えると雑音は出ない。

      • 再発時に [AM] に切り換えると雑音は出ない。

      • こうなると、原因は電源部やオーディオ部ではありません。

    2. 再発中に電源部のノイズをオシロスコープでチェックすると +30V に雑音に同期して僅かなパルスが乗ることが確認できました。

      • +30V 電源は VT 電圧(同調電圧)回路で使います。

      • VT 電圧そのものをオシロスコープでチェックすると、雑音に完全に同期した大きなパルスが乗っている。

      • VT 電圧がフラつくと、FM 変調を掛けたのと等しいですから、雑音として聴こえてしまいます。 直接原因はこれです。

    3. ガソゴソ雑音がしばらく続いた後、VT 電圧が 10V 程度だったものが 8V 程度に下がってしまう現象が確認できました。

      • この時でも選択した周波数の受信はできていました。

      • ただし、(VT 電圧が変わってしまうので RF 同調がズレて)感度が大きく低下するのも確認できています。

    4. VT 電圧がフラつく主な要因には以下があります。

        1. LM7000 の誤動作
        2. LM7000 出力の増幅回路
        3. +30V の低下(VT 電源)
        4. +5V の低下(LM7000 の電源)
        5. OSC VC(バリキャップ)の故障
        6. OSC トリマコンデンサの故障
        7. 上記の回路に使用している電解コンデンサの間欠故障

      • 同調周波数(OSC 発振周波数)に変化がなくて VT 電圧だけが低下することより、OSC 同調回路の LC 定数が変動するとしか考えられない。従って、1, 2, 3, 4, 7が原因ではなさそうです。

      • 5であれば交換用の VC の入手が困難。

      • 6の場合、トリマコンデンサの接触不良のようなものが発生しているのかもしれないです。

      • 5と6の切り分けのために、ガサゴソ雑音発生時に OSC トリマコンデンサを回してみました。 写真は FX-711 に実装されていたトリマコンデンサです。

        • 回すとガソゴソ雑音が消えました。

        • 更に OSC トリマコンデンサを回してみたところ、回すことによりガサゴソ雑音が出ます ・・・ この OSC トリマコンデンサの不良に間違いないです。

    5. 以上の結果を踏まえて、OSC トリマコンデンサ (TC105) を交換してみました。

      • 交換したトリマコンデンサをいくら回してもガサゴソ雑音は発生しません。 明らかに、前に付いていたトリマコンデンサは不良です。

      • 故障していたトリマーコンデンサをルーペで観察すると、可動部の軸がハトメのような止め方でした。 おそらくこの部分の接触が悪く抵抗値を生じていると推測します。 すなわち、「C 分+R 分」のような故障モードと思います。 写真を見て頂けると書いたことが判ると思います。

      • 不良品と同じトリマコンデンサは(5連バリキャップ方式なので)あと4個あります。 これらも不良になっている可能性があります。 RF 系に使われているので、不良になっていても、ちょっと感度が低いなぁ〜程度で気付きにくいです。

    6. 最終的に FM フロントエンドのトリマコンデンサを全数交換しました。

      • 全数交換するか、使用トリマコンデンサの温度係数が判らないので最初は躊躇していました。

      • でも考えてみると、PLL 同調方式なので温度係数はラフでよいのではないか。

        • 全く同じトリマコンデンサなら、温度係数がどうであれ、温度変化に対して同じ方向に容量変化します。

        • 変化分は PLL 回路によって同じ方向に VC 補正されます。

        • 従って、同じトリマコンデンサを使う前提であれば、温度係数は関係ないはずです。

        • これはシンセサイザー方式のメリットと思います。 バリコン式チューナーなら、受信周波数と目盛スケールが合わなくなります。

      • 上記の考察より、自信を持ってトリマコンデンサを全数交換しました。

        • FM に使用しているトリマコンデンサの容量は一般に 10PF 前後です。 FX-711 の FM に使用しているトリマコンデンサは青色なので 10PF と思います。

        • アキバで探してみると 村田製作所TZ03Z100F169 という 10PF タイプが見つかりました。 千石電商 で1個60円でした。

        • 温度特性は ±0ppm/℃ で非常に良いです。 これなら問題なく使えます。

        • トリマコンデンサを全数交換 (TC101〜105) して FX-711 を安心して使えるようになりました。

  2. FM 感度低下

  3. 予防交換

    1. AM のトリマコンデンサも全数交換 (TC301〜302) しました。 写真は FX-711 に実装されていたトリマコンデンサです。

      • AM にも FM と同じ形状のトリマコンデンサが使われています 同じ故障モードが心配なので、これも交換しました。

      • AM に使用しているトリマコンデンサの容量は一般に 20PF 前後です。 FX-711 の AM に使用しているトリマコンデンサは赤色なので 20PF と思います。

      • アキバで探してみると 村田製作所TZ03R200F169 という 20PF タイプが見つかりました。 秋月電子通商 で1個25円でした。

      • 温度特性は −750ppm/℃ ですが AM なので問題ないでしょう。

    2. [電源基板] に実装されている以下の電解コンデンサを高信頼品に交換しました。 製造後20年以上経過しているので交換したほうが安心です。 写真は FX-711 に実装されていた電解コンデンサです。

      • C807 2200uF 50V 85℃ → 3300uF 50V 105℃ 低ESR (25円)
      • C809 2200uF 16V 85℃ → 2200uF 16V 105℃ 低ESR (60円)

  4. 半田クラック対策

  5. クリーニング

  6. 追加修理

    1. 2010年3月28日、プリセットメモリ不具合修理

      • 少し使っていたら、プリセットメモリの記憶が1日は持つが2日は持たないということが判明しました。

      • 原因は、フロントパネル基板に搭載されている「電気二層コンデンサの容量抜け」です。

      • フロントパネル基板上の電気二層コンデンサを 0.047F 5.5V → 0.22F 5.5V に交換して完全に直りました。 写真は不良だった電気二層コンデンサです。

    2. 2010年8月28日、タクトスイッチ全数交換

      1. 操作ボタンで [REC CAL] と [8] ボタンの効きが悪いことが判っていましたが、タクトスイッチが入手できたので交換しました。

      2. 軸長が基板面から 9.5mm のタクトスイッチです。

      3. 全部で32個ありましたが、全数交換しました。 千石電商 で1個20円でした。



調整

写真の FM/AM 標準信号発生器 Panasonic VP-8175A (以下 SSG)、 FM Stereo 信号発生器 MEGURO MSG-2170、 周波数カウンタ ADVANTEST TR5822 を使って調整します。 10年も経つとコイルやトリマはズレます。

  

  1. 調整ポイント



  2. 電圧チェック (VP)

    VP 標準値 実測値 判定 備考
    Q801-E +30V +29.4V VT 電源
    Q803-E +12V +12.1V オーディオ電源
    Q808-E -12V -13.1V オーディオ電源
    Q805-E +5V +5.17V ロジック電源
    J705-3pin +5.6V +5.62V MCU 電源
    J705-5pin -35V -34.1V FL 電源

  3. FM 受信部の調整

    手順 SSG出力 FX-711 の設定 調整箇所 TP 及び調整値 備考
    1 - BAND : FM
    REC CAL : OFF
    RF MODE : DX
    IF BAND : NARROW
    MODE : MONO
    - -  
    2 - 76.0MHz 受信 L151 TP101 電圧 = 7.5±0.1V OSC トラッキング調整
    3 - 90.0MHz 受信 TC105 TP101 電圧 = 22.0±0.1V
    4 手順2と3を数回繰り返す
    5 76MHz
    30dB
    mono 1kHz
    76MHz 受信 L103
    L104
    L105
    L106
    dB 表示 = 最大 RF トラッキング調整
    6 90MHz
    30dB
    mono 1kHz
    90MHz 受信 TC101
    TC102
    TC103
    TC104
    7 手順5と6を数回繰り返す
    8 83MHz
    30dB
    mono 1kHz
    83MHz 受信 T101 dB 表示 = 最大 IF 調整
    9 83MHz
    90dB
    無変調
    T206 TP103 端子間電圧 = 0±1.5mV 同調点調整
    10 T207 D205 センタ波形 = 最大
    オシロスコープで観測
    PLL 検波調整
    11 T208 R246 フロント側電圧 = 0±10mV
    12 - BAND : FM
    REC CAL : OFF
    RF MODE : DX
    MODE : AUTO
    - -  
    13 83MHz
    90dB
    mono 1kHz
    83MHz 受信
    IF BAND : WIDE
    T204 オーディオ出力 = 高調波歪最小 WIDE mono
    14 83MHz
    90dB
    stereo 1kHz L+R
    T202 WIDE stereo
    15 83MHz 受信
    IF BAND : NARROW
    T201 NARROW stereo
    16 - BAND : FM
    REC CAL : OFF
    RF MODE : DX
    IF BAND : WIDE
    MODE : AUTO
    - -  
    17 83MHz
    90dB
    stereo 1kHz L+R
    83MHz 受信 VR403
    (P. CANCEL)
    オーディオ出力 = 19kHz 成分最小 Pilot キャンセラ調整
    18 83MHz
    90dB
    stereo 1kHz R
    VR401
    (SEPA. R→L)
    L ch. オーディオ出力 = 最小 セパレーション調整 (L)
    19 83MHz
    90dB
    stereo 1kHz L
    VR402
    (SEPA. L→R)
    R ch. オーディオ出力 = 最小 セパレーション調整 (R)
    20 83MHz
    60dB
    無変調
    VR602
    (FM dB 1)
    dB 表示 = 60dB S メータ調整
    21 83MHz
    30dB
    無変調
    VR601
    (FM dB 2)
    dB 表示 = 30dB
    22 手順20と21を数回繰り返す
    23 83MHz
    20dB
    mono 1kHz
    83MHz 受信 VR604
    (MUT SENS.)
    ミューティング = ON/OFF 閾 ミューティングレベル調整
    24 83MHz
    90dB
    mono 400Hz
    - オーディオ出力 = レベル値を記録 REC CAL 調整
    25 83MHz 受信
    REC CAL : ON
    VR404
    (REC LEVEL)
    オーディオ出力 = 手順24 の -6dB

  4. AM 受信部の調整

    手順 SSG出力 FX-711 の設定 調整箇所 TP 及び調整値 備考
    1 - BAND : AM
    REC CAL : OFF
    - -  
    2 - 522kHz 受信 L302 TP102 電圧 = 1.8±0.1V OSC トラッキング調整
    3 - 1629kHz 受信 TC302 TP102 電圧 = 20±0.1V
    4 手順2と3を数回繰り返す
    5 603kHz
    40dB
    無変調
    603kHz 受信 L301 dB 表示 = 最大 RF トラッキング調整
    6 1404kHz
    40dB
    無変調
    1404kHz 受信 TC301
    7 手順5と6を数回繰り返す
    8 999kHz
    40dB
    無変調
    999kHz 受信 T301 dB 表示 = 最大 IF 調整
    9 999kHz
    90dB
    無変調
    VR603
    (AM dB)
    dB 表示 = 90dB S メータ調整

  5. 調整結果

    1. FM ステレオセパレーションなどは以下です。 素晴らしい数値です。 やはり FX-711 は優秀機です。

    2. 私の手元にやって来た時はボロボロの性能でしたが、再調整で一級品の性能に復帰しました。

    3. やはり、FM チューナは定期的な再調整が欠かせません。

      項目 IF BAND L R 単位
      ステレオセパレーション (1kHz) WIDE 77 73 dB
      NARROW 27 27 dB
      パイロット信号キャリアリーク WIDE -50 -50 dB
      オーディオ出力レベル偏差 (MONO) 0 -0.05 dB
      REC CAL 457.0 Hz
      -7.1 -7.0 dB



使ってみました

  1. デザインなど

  2. 機能

  3. 感度&音質



仕様ほか

  1. ドキュメント

  2. 仕様

    FM チューナー部  
    受信周波数 76.0〜90.0MHz
    実用感度 (75Ω) mono: 0.9μV/10.3dBf
    50dB クワイティング感度 (75Ω) mono: 1.5μV/14.8dBf
    stereo: 22μV/38.1dBf
    S/N 比 (85dBf 入力時) mono: 99dB
    stereo: 91dB
    全高調波歪率 (1kHz) mono: 0.005%
    stereo: 0.009%
    キャプチュアレシオ 1.0dB
    実効選択度 Narrow: 75dB (±400kHz)
    イメージ妨害比 120dB
    IF 妨害比 120dB
    ステレオセパレーション (1kHz) 65dB
    周波数特性 20Hz〜15kHz ±0.3dB
    AM チューナー部  
    受信周波数 522〜1629kHz
    実用感度 外部アンテナ: 10μV
    ループアンテナ: 250μV/m
    S/N 比 52dB
    選択度 60dB (±9kHz)
    総合  
    電源電圧 AC100V 50/60Hz
    定格消費電力 14W
    外形寸法 435(W)×101(H)×295(D) mm
    重量 5.2kg
    ファンクション  
    FM/AM プリセット 20局ランダムプリセット
    プログラムメモリ 8局
    ANTENNA A/B
    RF MODE DX/LOCAL
    IF BAND WIDE/NARROW
    MODE AUTO/MONO
    DISPLAY 放送局名/電界強度(dB)
    STOP LEVEL OFF/20/25/35/40/45/50/55/60 dB
    AUTO MEMORY OFF/ON
    REC CAL OFF/ON
    その他  
    発売時期 1987年
    定価 49,800円