KENWOOD L-03T (4号機) が到着
2023年6月26日、宮城県大崎市の A さんから
KENWOOD L-03T
の修理依頼品が到着しました。
定価12万円
の
FM 専用チューナ
です。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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20年くらい前に、フロントエンドのトリマコンデンサが悪くなり、メーカに問い合わせました。
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フロントエンドの交換になるが、もう在庫がなくなったので修理はできないと言われました。
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そこで、自分でトリマコンデンサを交換しました。
電源回路やカップリングなどのコンデンサも交換しました。
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Σドライブは、ノータッチでOKです。
全面のスライドボリュームのガリもそのままでOKです。
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外観
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製造シリアル番号は [38K10136] で、電源コードの製造マーキングより [1983年製造品] とわかりました。
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汚れはありますが割と綺麗です。
リアパネルの端子も問題なさそうです。
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リアパネルのアンテナ端子が [簡易 F 端子]→[F 端子] に交換されています。
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[同調] ノブのエッジに少し目立たないハゲがあります。
天板の左側面手前と右側面手前にサビが出ています。
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電源 ON してチェック
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電源は問題なく入りました。
ランプ切れはありませんが、指針の照明が暗いです。
見えないことはないです。
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[同調] ノブのバックラッシュがかなり大きく、非常に同調し辛いです。
この時はプーリー軸の隙間が広がっているのかな?と思いました。
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[S メータ] のピークと [T メータ] のセンタが合わないです。
同調点ズレしています。
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[S メータ] の振れが少なく、[FM RF SEL] を [DIRECT] にするとほぼゼロになります。
感度低下しています。
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[REC CAL] スイッチ ON で録音用テスト音が正常に出ます。
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カバーを開けてチェック
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あっと驚き!!!
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プーリー位置を標準より左側に移動し、プーリー軸先端に [同軸プラクの接栓] を取り付けして先端を延ばし、側板から脱落防止しています。
プーリー位置はもっと右側に移したほうがよいと思いますが、これはこれでアリかなと思います。
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更にギア機構を分解した形跡があります。
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問題はここで、ギア機構が正しく組み立てされてない!
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本来あるはずのストッパー金具もありません。
あれれ!!!???
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2枚の大きなギア間にスプリングを入れてバックラッシュを防ぐ構造ですが、このスプリングが全然効いていないのです。
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バックラッシュ防止用スプリングが効いていないので、当然の結果としてバックラッシュが大きいのです。
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私では回復無理です。
ストッパー金具も無くなっているので、修理依頼者のほうで更に頑張ってもらうしかないです。
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こういう意味では同時に修理を依頼された
TRiO KT-2200 (3号機)
のほうが状態が良いです。
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バックラッシュが大きいと完全なトラッキング調整ができないのです。
大体で合わせるしかなくなります。
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修理依頼者のほうで、フロントエンドの OSC トリマコンデンサが交換されており、これにも
ビックリ!!!
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糸掛け機構を分解し、フロントエンドを取り外してトリマコンデンサを交換しています!
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修理依頼者はよほど器用なかたなんだろうと思います。
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フロントエンド取り外しにはリスクが伴います。
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糸掛け機構を外さないないといけないです。
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熱量の大きなハンダゴテを使うので基板を傷めやすいです。
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おそらく、この時にバリコンギア機構を分解してしまい、バックラッシュ不具合を作り込んだと思います。
大きな代償
です。
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普通は故障したフロントエンド内のトリマコンデンサをむしり取って、代わりに外部にトリマコンデンサを付けます。
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OSC バリコン端子と GND の間に新しいトリマコンデンサを入れるのです。
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あと、交換されたトリマコンデンサの容量がわからないので不安があります。
10pF またはこれに近いことを祈ります。
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バックラッシュが大きいとトラッキング調整は大体で合わせるしかなく、この性能を保証できません。
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以上の不具合がありますが内部は綺麗で、修理依頼者のほうでやられた電解コンデンサ交換の部分も問題ないです。
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カバーを開ける時に気が付いたのですが、サイドから留める4本のタップネジが変?
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[長いネジ]×2本+[短いネジ]×2本で留められています。
特に問題ないですが。
リペア
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バリコン軸の接触不良回復
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本機ではまだ発生していませんでしたが、[同調ノブ動作で受信音にガサゴソ雑音が入る] の現象が出ます。
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本機は40年物ビンテージ (2023年現在) です。
バリコン軸の接触不良回復はやるべきです。
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを爪楊枝で丹念に落とします。
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[1] と [2] を何度も何度も繰り返します。
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仕上げに、軸受けに
CRC 5-56
を塗布して防錆処置します。
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結構手間がかかりましたが、以上で回復しました。
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同調点ズレと感度低下
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バリコンのバックラッシュが大きい
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諦めです。
有効な対策を思いつきません。
このままとします。
再調整
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電圧チェック (VP)
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以下のように正常です。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
Q42-E |
+12V |
+12.2V |
〇 |
IC24-OUT |
+8V |
+7.99V |
〇 |
IC25-OUT |
-8V |
-8.17V |
〇 |
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FM 受信部の調整
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予想通り、フロントエンドのトラッキング調整に難航し、かなりの時間がかかりました
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バックラッシュがあるので、最良ポイントを見失ってしまって何度もやり直すことになったのです。
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何が正しいかわからないような ・・・
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トラッキング調整は ±0.1MHz を目指すのですが、±0.3〜0.4MHz の誤差まで追い込むのがやっとでした。
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通常は1時間もあれば全ての再調整が終わるところ、半日以上かかりました。
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もう1つは修理依頼者のほうで交換したトリマコンデンサの容量が大き過ぎる疑惑が ・・・
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ここに使うトリマコンデンサは 10pF が正しいです。
おそらく 50pF 程度の大きいものを使ったのでは?
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トリマコンデンサは [0〜最大容量] と変化するのではなく、最低容量というのがあります。
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例えば [(最大容量の20%程度)〜最大容量] というように変化します。
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この例に従えば、50pF トリマコンデンサは 10〜50pF が変化範囲になります。
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ここの正しいトリマコンデンサは 10pF ですから、50pF トリマコンデンサを使ったら調整しきれないのです。
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やむを得ず、指針の位置も動かして無理矢理トラッキング調整するしかなかったです。
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調整結果
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再調整前は [FM IF SEL] DIRECT では S メータが僅かしか振れていませんでしたが、調整後はこのモードでも使えるようになりました。
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同時に音質が大きく向上しました。
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[ステレオセパレーション] [高調波歪率] [パイロット信号キャリアリーク] は以下の優秀な数値になりました。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
61 |
56 |
dB |
NARROW |
51 |
48 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.052 |
% |
stereo |
0.052 |
% |
NARROW |
mono |
0.066 |
% |
stereo |
0.066 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-86 |
-80 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
+0.02 |
dB |
REC CAL 信号 |
WIDE |
mono |
468.8 |
Hz |
-8.1 |
dB |
使ってみました
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本機の再調整を終わっての感想
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やはりバックラッシュが大きいというのが致命的です。
本機はジャンクレベルというしかないです。
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でも調整はちゃんとやったので、性能的には問題ないです。
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総合して実用品として我慢して使えるということです。
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デザイン
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ダイヤルスケールは最前面で照明はありませんが見易いです。
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黒いダイヤルスケールと赤い指針のマッチングが良いです。
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チューニングノブはタッチセンサになっています。
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[LOCK] スイッチ ON で同調サーボロックがかかります。
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感度や音質
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このクラスになると流石に良い
です。
安定度とか音質とかスペック表現できない部分が超優れています。
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感度が良く、高解像度でカチッとした超高音質です。
高域も低域もよく出ています。
S/N も良いです。
性能は超一流です。
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高解像度の音なのにハーモニー再現力もあります。
音に余裕があると言うか、この辺りが一般機との差です。