TRiO KT-990

TRiO KT-990 が到着

2015年11月3日、豊橋市のＫさんから パルスカウント検波 が特長の TRiO KT-990 の修理＆再調整依頼品が到着しました。

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程度＆動作チェック

1. 外観
   
   
   • 製造シリアル番号は [30402863] です。
     
     
   • フロントパネルの大部分は強化ガラスなので、これが幸いしてキズはほぼ皆無です。
     
     
   • フロントパネルの強化ガラスとパネル枠の接触部分の黒の飾りシートがシワシワになっています。
     
     
     • 特に同調ノブの左上側の部分です。
       
       
     • 強化ガラスとパネル枠を分離するとボロボロと崩れそうなので、触らないほうが無難でしょう。
       
       
     • このため、強化ガラスを外しての内側清掃もできません。 汚れがあるのですが ・・・
       
       
   • リアパネルは並みの中古状態です。 RCA ジャックは問題ありませんが、AM ループアンテナ接続端子には赤サビが出ています。
     
     
   • 天板はスレや汚れが目立ちます。
     
     
   • 底板は薄っすらとしたサビもあり並みの中古状態です。
     
     
   • 同調ノブのパネル側の1箇所に小さなキズがあります。
     
     
2. 入手した状態のまま電源 ON してチェックしました
   
   
   • ランプ切れはありません。
     
     
   • FM 受信は正常でちゃんとステレオになります。
     
     
     • 僅かに周波数ズレがあり、76.0MHz→75.9MHz / 90.0MHz→89.8MHz で受信されます。
       
       
   • AM 受信は良好で感度も良いです。 IF BAND = WIDE では高音がよく出ています。
     
     

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カバーを開けてみました

1. 基板の作りは良いです。 写真をクリックすると拡大写真を表示できます。
   
   
   • アナログチューナーと言っても最後期の製品なので、使用している IC や回路はシンセサイザーチューナと変わりません。
     
     
   • 抵抗など少し大き目の部品を使っており、点検用底板があります。 このため、メンテナンスが楽です。
     
     
   • よく似た外観をしている KT-900 より回路に改善が見られます。 値段の差以上です。
     
     
   • 使用 IC のロット番号より、この KT-990 は1982年製と判明しました。 電源ケーブルの製造マーキングも1982年でした。
     
     
2. IC を使用して合理化が図られています。
   
   

   メーカ	IC	機能
   NEC	uPC1163H	FM IF Amplifier
   	uPC1223C	FM Multiplex Stereo Demodulator
   Panasonic	AN6135	Hi-Fi Pop-Noise Canceller Circuit
   	AN6555	Low Noise Dual Operational Amplifier
   	AN6877	7-Dot LED Driver Circuits
   SANYO	LA1245	AM Electronic Tuner
   TRIO-KENWOOD	TR4011	Pulse Count Detector
   	TR7020	Quadrature Detector & IF Down Convert

   
   
3. FM フロントエンドは以下の構成で、4連バリコンです。
   
   
   (アンテナ)→[同調]→[Dual Gate FET]→[同調]→[同調]→[Mxer]←[OSC 同調]
   
   
   • [Mixer] と [OSC] には両方をまとめた専用ハイブリッド IC が使われています。 専用ハイブリッド IC の中身は不明です。
     
     
   • RF 系は2点トラッキング調整できますが、空芯コイルなので調整は難しいです。
     
     
   • OSC はトリマーコンデンサによる1点トラッキングです。 コイルは高周波ニスでしっかり固められているので調整不可能です。
     
     
4. FM IF 部は以下の構成です。 WIDE 側にゲイン調節ボリューム (VR1) があります。
   
   
   • WIDE 時
     
     
     (FE)→[CF1]→[uPC1163H]→ [L2]→[VR1] →[uPC1163H]→[CF4]→[TR7020]
     
     
   • NARROW 時
     
     
     (FE)→[CF1]→[uPC1163H]→ [CF2]→[CF3] →[uPC1163H]→[CF4]→[TR7020]
     
     
5. FM パルスカウント検波部 ・・・ 第3世代パルスカウント検波 の構成です。
   
   
   • [TR7020] のクォードラチュア検波を使って S メータ回路と T メータ回路を構成し、同時に IF 10.7MHz → 1.96MHz に周波数変換します。
     
     
   • 周波数変換された 1.96MHz を [TR4011] でパルスカウント検波します。
     
     
6. MPX 部は [uPC1223C] を使った PLL MPX です
   
   
   • パイロットキャンセル回路があります。
     
     
   • [WIDE] [NARROW] 別々にセパレーション調整ボリュームがあります。 [WIDE] 側は左右別々に調整できます。 [NARROW] 側は左右共通の調整です。
     
     
7. AM 部のフロントエンドは2連バリコンです。 [LA1245] で全てを構成します。
   
   
   • IF BAND を [WIDE] [NARROW] に切り換えできます。
     
     

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リペア

1. FM 受信で -0.2〜-0.1MHz 程度の周波数ズレがある
   
   
   • 原因は FM フロントエンドの OSC トリマコンデンサの劣化です。
     
     
     • トリマコンデンサを回しても容量が変化せず、ある一定の容量のままという珍しい故障です。 このため、全く調整不能です。
       
       
     • トリマコンデンサを交換するには、ダイヤルの糸掛け機構を外し、フロントエンドをメイン基板から取り外すと大仕事です。
       
       
     • そこで、古いトリマコンデンサをニッパで切って取り外し、新しいトリマコンデンサを外付けすることにしました。
       
       
   • 以下のように対策しました。
     
     
     1. 写真の1枚目は対策前です。
        
        
     2. 写真の2枚目のトリマコンデンサを取り外しました。
        
        
     3. 写真の3枚目はトリマコンデンサを取り外した状態です。
        
        
     4. 写真の4枚目のように外部に 10PF トリマコンデンサを取り付けました。
        
        
     5. ネジと豆ラグの締め付け部をネジロックペイントしました。
        
        
   • この対策で OSC を正常に調整できるようになりました。
     
     
2. バリコンの真鍮の軸や金具に緑青のサビが出ている
   
   
   • 以下のように対策しました。
     
     
     1. バリコン軸のサビを爪楊枝で落としました。
        
        
     2. 接触回復の目的で エレクトロニッククリーナ を噴射し何度もバリコン羽を動かしました。 エレクトロニッククリーナは揮発性なので、最後には完全に消滅するのが利点です。
        
        
     3. 仕上げに コンタクトグリース 塗布しました。 接触部の保護目的です。
        
        
   • 結構手間がかかりましたが、以上で直りました。
     
     

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調整

写真の FM/AM 標準信号発生器 Panasonic VP-8175A (以下 SSG)、 FM Stereo 信号発生器 MEGURO MSG-2170、 周波数カウンタ ADVANTEST TR5822 を使って調整します。 10年も経つとコイルやトリマはズレます。

　　

1. 調整ポイント
   
   

   FM/AM 区分	種別	調整ポイント	調整内容
   FM	L	T1 T2 T3	RF トラッキング
   	TC	TC1 TC2 TC3
   	L	T4	OSC トラッキング
   	TC	TC4
   	IFT	L1	IF
   	IFT	L2	IF (WIDE)
   	IFT	L4	QR 同調点
   	IFT	L5	Noise IF
   	IFT	L6	2nd OSC
   	VR	VR1	WIDE GAIN
   	VR	VR2	REC CAL
   	VR	VR3	NARROW SEPA
   	VR	VR4	WIDE SEPA (R)
   	VR	VR5	WIDE SEPA (L)
   	VR	VR6	PILOT CANCEL
   	VR	VR7	VCO
   	LPF	L14	38kHz LPF
   AM	L	L10	RF トラッキング
   	TC	CT1
   	L	L12	OSC トラッキング
   	TC	CT2
   	IFT	L11	IF

   
   
2. 電圧チェック
   
   

   TP	標準値	実測値
   J151	+14V	+13.93V

   
   
3. FM 受信部の調整
   
   

   手順	SSG出力	KT-990 の設定	調整箇所	TP 及び調整値	備考
   1	-	REC CAL : OFF LOCK : OFF MODE : MONO IF BAND : NARROW SELECTOR : FM	-	-
   2	83MHz 30dB mono 1kHz	83MHz 受信	TC4	TP4 電圧 = 最大	OSC トラッキング調整
   3			TC1 TC2 TC3		RF トラッキング調整
   4			L1 L2		IF 調整
   5	83MHz 90dB mono 1kHz	83MHz 受信	L4	TP1〜TP2 間電圧 = 0±10mV	同調点調整
   6	83MHz 40dB mono 1kHz	83MHz 受信	-	TP4 電圧を記録	WIDE ゲイン調整
   7		83MHz 受信 IF BAND : WIDE	VR1	TP4 電圧 = 手順6と同一
   8	83MHz 90dB 無変調	83MHz 受信	L6	TR4011 1pin 周波数 = 1.96MHz 周波数カウンタで測定	パルスカウント検波調整
   9	83MHz 90dB mono 400Hz	83MHz 受信	-	オーディオ出力 = レベルを記録	REC CAL 調整
   10		REC CAL : ON	VR2	オーディオ出力 = 手順9の -6dB
   11	83MHz 90dB stereo 1kHz L+R	83MHz 受信 REC CAL : OFF MODE : AUTO	L1	オーディオ出力 = 高調波歪率最小	IF 歪補正
   12	83MHz 90dB stereo 1kHz L+R	83MHz 受信	VR7	下の [VCO 調整手順] を参照	VCO 調整
   13			VR6	オーディオ出力 = 19kHz 成分最小	パイロット・キャンセル調整
   14			L14 左コア	L ch. オーディオ出力 = 38kHz 成分最小	LPF 調整
   15			L14 右コア	R ch. オーディオ出力 = 38kHz 成分最小
   16	83MHz 90dB stereo 1kHz R		VR5	L ch. オーディオ出力 = 最小	WIDE セパレーション調整 (L)
   17	83MHz 90dB stereo 1kHz L		VR4	R ch. オーディオ出力 = 最小	WIDE セパレーション調整 (R)
   18	83MHz 90dB stereo 1kHz R/L	83MHz 受信 IF BAND : NARROW	VR3	L/R ch. オーディオ出力 = 最小	NARROW セパレーション調整

   
   
   • VCO 調整手順
     
     

     手順	備考
     1	VR7 を反時計方向に回し切る
     2	VR7 を徐々に時計方向に回し、ディスプレイの [STEREO] 表示が点灯した位置を記録する
     3	VR7 を時計方向に回し切る
     4	VR7 を徐々に反時計方向に回し、ディスプレイの [STEREO] 表示が点灯する位置を記録する
     5	VR7 を [手順2] と [手順4] の中間に設定する

     
     
4. AM 受信部の調整
   
   

   手順	SSG出力	KT-990 の設定	調整箇所	TP 及び調整値	備考
   1	-	SELECTOR : AM	-	-
   2	600kHz 60dB 1kHz	600kHz 受信	L12	TP4 電圧 = 最大	OSC トラッキング調整
   3	1400kHz 60dB 1kHz	1400kHz 受信	CT2
   4	手順2と3を数回繰り返す
   5	600kHz 40dB 1kHz	600kHz 受信	L10	TP4 電圧 = 最大	RF トラッキング調整
   6	1400kHz 40dB 1kHz	1400kHz 受信	CT1
   7	手順5と6を数回繰り返す
   8	1000kHz 40dB 1kHz	1000kHz 受信	L11	TP4 電圧 = 最大	IF 調整

   
   
5. 調整結果
   
   
   • ダイヤルスケールと指針のズレは ±0.12MHz 以内にするのが精一杯でした。
     
     
   • 高調波歪率は WIDE 1kHz で mono 0.012% / stereo 0.015% 程度でスペックより優秀でした。
     
     
   • FM ステレオセパレーションなどは 以下となりました。 良好な数値です。
     
     

   項目	IF BAND	L	R	単位
   ステレオセパレーション (1kHz)	WIDE	65	65	dB
   	NARROW	58	61	dB
   パイロット信号キャリアリーク	WIDE	-53	-54	dB
   オーディオ出力レベル偏差 (mono)		0	+0.12	dB
   REC CAL 信号		421.9		Hz
   		-6.8	-6.8	dB

   
   

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使ってみました

1. デザインが優れた薄型チューナ
   
   
   • よく似たデザインの KT-900 と比べるとフロントパネルのサイズは同じですが、奥行が 390mm → 337mm と 53mm も短くなりました。 設置の自由度が向上しました。
     
     
   • フロントパネルの枠とスイッチ類がプラスチックで安っぽいのが残念です。
     
     
   • ダイヤルスケール部には本物の強化ガラスが使われています。
     
     
   • 同調ノブは輝きのあるスモークアルマイト処理がされており、直径 41mm の無垢アルミです。
     
     
   • 同調ノブの動きが安っぽいです。 高級機のような重厚感のあるスムーズな動きではないです。
     
     
   • ダイヤルスケール部全体がイルミネーション照明されており綺麗です。
     
     
   • [SERVO LOCK] ランプは馬鹿デカくてセンスが悪いです。 ドット表示のほうが良かったと思います。
     
     
2. 機能関連
   
   
   • S メータは 7 レベルの LED バー2色表示で、とても良いです。
     
     
     • 電波に感応しているが同調点から離れている時は赤表示、同調点に近付くと緑表示になります。
       
       
     • また、電波レベルが弱い場合は赤表示のままで、この時は [MODE] スイッチを MONO にするとモノラル受信できます。
       
       
   • T メータの代わりが [→ ←] の LED 表示です
     
     
     • 離調している時は [→ ←] のどちらかが橙色で、もう一方が赤色です。
       
       
     • 同調すると両方が橙色になり、ここで同調ノブから手を離すと両方が緑色になります。
       
       
   • 同調ノブがタッチセンサーになっています
     
     
     • 同調ノブを手で摘んでいる時はサーボ OFF で、手を離すと ON になって最適同調点に [→ ←] 表示が引き込まれます。
       
       
     • この動作スピードが極めて速く軽快です。 サーボの精度も高いようです。
       
       
   • [REC CAL] スイッチを ON にするとテストトーンが流れ、録音機のレベル合わせができます。 （FM だけに有効）
     
     
   • [LOCK] スイッチでサーボロック機能を「ON/OFF」に切換できます。 （FM だけに有効）
     
     
   • [MODE] スイッチで「AUTO/MUT」「MONO」を切換えできます。 （FM だけに有効）
     
     
   • [IF BAND] スイッチで「WIDE/NARROW」に切換できます。
     
     
   • [SELECTOR] スイッチで「FM/AM」バンド切換します。
     
     
3. 感度や音質
   
   
   • FM は TRiO らしい高解像度でカチッとした高音質です。 感度も良いです。
     
     
   • バリコン式のため、仕様よりもやや広い 75.0〜91.2MHz の範囲が受信可能でした。 ワイド FM の TBS ラジオ 90.5MHz が受信できました。
     
     
   • FM でサーボロックが掛かる一瞬、高調波歪率が大きく悪化します。 ロックが掛かれば問題ありません。 これは本機の仕様でしょう。
     
     
   • AM は高感度で S/N が高いです。 [IF BAND] を「WIDE」にすると高音がよく出ます。
     
     
   • 性能は良いのですが、 フロントパネル枠とスイッチ類が安そうなプラスチック で、これが質感を大きく下げています。 残念 です。
     
     

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仕様

FM 受信部
受信周波数範囲	76〜90MHz
実用感度 (75Ω)	mono	0.95uV/10.8dBf
S/N 比 50dB 感度 (75Ω)	mono	1.8uV/16.4dBf
	stereo	20uV/37.3dBf
高調波歪率 (100% 変調)	WIDE	mono	0.03% (100Hz), 0.03% (1kHz), 0.09% (15kHz), 0.05% (50Hz〜10kHz)
		stereo	0.05% (100Hz), 0.04% (1kHz), 0.5% (15kHz), 0.18% (50Hz〜10kHz)
	NARROW	mono	0.04% (100Hz), 0.07% (1kHz), 0.4% (15kHz), 0.15% (50Hz〜10kHz)
		stereo	0.3% (100Hz), 0.3% (1kHz), 1.0% (15kHz), 0.6% (50Hz〜10kHz)
S/N 比 (100% 変調、85dBf 入力)	mono	90dB
	stereo	83dB
キャプチャーレシオ	WIDE	1.0dB
	NARROW	2.0dB
実効選択度	WIDE	45dB (400kHz)
	NARROW	65dB (300kHz)
ステレオセパレーション	WIDE	55dB (1kHz), 45dB (50Hz〜10kHz), 40dB (15kHz)
	NARROW	47dB (1kHz), 35dB (50Hz〜10kHz), 35dB (15kHz)
周波数特性	20Hz〜15kHz ±0.5dB
イメージ妨害比 (84MHz)	90dB
IF 妨害比 (84MHz)	100dB
スプリアス妨害比 (84MHz)	120dB
AM 抑圧比	70dB
キャリアリーク抑圧比	55dB
アンテナインピーダンス	75Ω不平衡型
AM 受信部
受信周波数範囲	520〜1650kHz
感度	15uV (IHF) 300uV/m (ループアンテナ)
S/N 比 (30% 変調、1mV 入力)	55dB
高調波歪率 (1000kHz)	0.4%
選択度 (IHF)	WIDE	30dB
	NARROW	50dB
周波数特性	WIDE	30Hz〜6kHz
総合
出力レベル/インピーダンス	FM 1kHz 100% 変調	Fixed	0.75V/1.8kΩ
	AM 400Hz 30% 変調	Fixed	0.25V/1.8kΩ
電源電圧	AC100V, 50/60Hz
定格消費電力	14W
外形寸法	440(W)×78(H)×337(D)mm
重量	4.7kg
その他
発売時期	1982年
定価	53,800円

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